看板

写真怪談

裏口の坊やは、膝をついたまま

表で人を止める坊やは、裏で人を引き戻す──金属ブラシが描く円弧の意味に気づいた夜、私は視線を上げられなくなった。
ウラシリ怪談

商店街の掲示板

古い商店街に、新しい掲示板が設置されたそうです。行事案内や落とし物、地域の告知などが貼られ、町の人々は気軽に利用していたといいます。最初は、子どもの演奏会の案内や回覧板の写しなど、見慣れた張り紙ばかりだったそうです。けれどある晩、通りかかった住民が、掲示板の裏側から“紙をめくるような音”を聞いたといいます……振り返った時、誰もいない通りに、ただ一枚の紙がひらりと揺れていたそうです。翌朝、掲示板の隅に、小さな紙片がひとつ貼られていました。そこには鉛筆で「待っている」とだけ書かれていたといいます。裏返すとただの紙屑で、糊も画鋲の痕もなく、どうやって貼られていたのか分からなかったそうです。それ以降、掲示板には夜ごとに短い文字が現れるようになったといいます。「ありがとう」「また来るよ」──どれも当たり障りのない言葉ですが、朝には必ず消えていたそうです。貼った者を見た人はいないのに、紙は増え、夜風に揺れては消えたといいます……。ある住民が深夜に掲示板を見張っていると、背後から“カサリ”という音がして、振り返った時、掲...
写真怪談

立入禁止の遷し守(うつしもり)

安全担当だった先輩が教えてくれた。「うちの現場に一本だけ、廃棄できない看板がある。撤去日に必ず“次の工区”へ手配されるやつだ」理由は経費でも再利用でもない。その看板は、貼り出した瞬間から周囲の“境界”を吸い集める。関係者とそれ以外、内と外、許可と不許可——人が毎秒無意識に引いている線が、反射材の網目に絡みとられてゆく。日が暮れると、区画は不自然なまでに“区切れて”しまう。人同士の会話がところどころで途切れ、誰も隣の作業と混ざらなくなる。ミスが起きにくい反面、そこにいたはずの誰かの話も急に続きが思い出せなくなる。撤去のたび、試しにその看板を置いていったことがあったという。翌日から空き地なのに、フェンスがなくても人が“入らない”。近道のはずが、通勤客は必ず遠回りを選ぶ。重機もトラックも、誘導員の合図を受け取り損ねたように、目に見えない線でつまずく。工事は終わっているのに、場所だけが「作業中」をやめない——まるで注意そのものが跡地に固着してしまったみたいに。だから看板は移される。境界を持ち運ぶ容器として、“区切り...