目撃証言

ウラシリ怪談

遮断機の内側

遮断機が下りた踏切の“内側”にだけ立つ影の噂が残っているそうです…
ウラシリ怪談

官邸の夜会議

その夜、首相官邸の巡回記録には、執務室の前で足音が二度止まっていると記されています。扉の向こうでは、予定にない会議の声が幾層にも重なり、壁の奥からにじむように響いていたそうです。鍵は掛かっておらず、灯りは消えたまま。警備員がノブを押すと、冷気が指先を吸い、音のない波が室内へ引いていったといいます。部屋には誰もいませんでした。ただ、長机の周りに並ぶ椅子が、どれもわずかに机へ寄っており、背凭れには人の背の形をなぞる湿りが残っていました。机上のメモ帳は白紙のままですが、紙の中央に丸い跡がひとつ、押印の痕のようにくぼんでいたといいます……。そこで異変が始まったそうです。長机の端から端へ、椅子が一脚ずつ音もなく引かれ、空席が規則正しく埋まっていきました。誰もいないのに、椅子は「腰を下ろす重み」を受けたかのように沈み、肘掛けには見えない肘が乗りました。天井の時計は午前一時十七分で止まり、机の中央に置かれたスイッチの赤いランプだけが点きました。電源が落ちているはずの会議用マイクが、鳴らない喉をひとつずつ点検するように弱く...