木々の底

写真怪談

夕暮れに腕を上げる木

夕焼け空を背に「万歳」する木は、境界を守る目印のはずだった──腕の数さえ数えなければ。
写真怪談

水底に立つ森

湖の水面は不思議なほど静まり返っていた。風が吹いてもさざ波は立たず、ただ枯れ木だけが水中から真っ直ぐに伸びている。観光客が「美しい」と口にするその風景を、地元の古老は決して褒めなかった。「ここは森が沈んだ場所だ。木々はまだ立っておるが、根は水底に囚われている」ある若者が夜に訪れ、湖畔で眠ってしまった。目を覚ますと、胸の奥が重く冷たく、息がしづらい。見渡すと、湖に映る木々の影が本物の幹と違うことに気づいた。水に映った影の枝には、無数の腕のようなものが絡みつき、じわじわと水面を叩いているのだ。音はしない。ただ水が冷えてゆく。やがて影の中から、ぽたりと雫のように黒い塊が落ちた。それは水面を破らず、沈むこともなく、若者の足元へじわりと広がっていった。次の瞬間、彼は胸の奥に何かが入り込む感覚を覚えた。肺に冷たい泥が満ちていくようで、咳をしても吐き出せない。慌てて岸へと逃げたが、湖の表面には確かに彼自身の姿が映っていなかった。今でも、湖に立つ枯れ木の影の中に、ときおり人の形が混じることがあるという。見えてしまった者は、...
写真怪談

寄せ木の中に

ある地方都市で起きた、奇妙な行方不明事件の記録がある。場所は、公園裏の資材置き場。古い楠(くすのき)の大木が何本も切り倒され、山のように積まれていた。梅雨前の草木が生い茂り、ほとんど誰も近づかない一角だった。失踪したのは、中学生の男子──裕貴。彼は友人と一緒に、森で昆虫採集をしていたが、夕方を過ぎても帰ってこなかった。「たしかに見たんです、…あの木の隙間に、手が、入ってったんです」唯一の目撃者である友人は、涙と震えで言葉にならなかった。大人たちは、単なる転落か迷子と思って捜索したが、見つかったのは“折れたランドセルの紐”だけだった。それは、木材の間に食い込むように挟まっていた。さらに不可解だったのは、倒木のうち1本の断面。内部が空洞になっており、人間の指のようなものが数本だけ突き刺さっていたのだ。乾き、木に埋もれ、もはや骨かもわからなかった。警察は「動物の骨」として処理したが、写真を見た者の一人は、こう呟いたという。「いや、あれ……指の向きが“内側から外に向かってる”」以来、その場所では時折、木の山の中から...