写真怪談 裏路地に消える台車
昼下がりの飲食街。仕込みを終えた料理人二人が、台車を押して裏路地を歩いていた。白衣の背中に、午後の陽が滲む。ところが、その台車には何も載っていない。空のまま、軋むような音を立てて進んでいくのだ。「……なんか重くねぇか」片方がそう呟いた。もう一人も頷き、苦い顔をして汗を拭った。確かに、誰かを乗せているかのように、車輪は沈んでいる。すれ違った通行人がふと視線を落とすと、そこには見慣れぬ影が揺れていた。台車の上に、人影がひとつ。足を投げ出した、やせ細った女の影。だが実体はなく、料理人たちには見えていない。影はじっと背中を丸めて、路地の奥を睨んでいた。次の角を曲がったとき、影はすっと台車ごと掻き消えた。残されたのは、湿った鉄の匂いと、やけに冷たい風だけだった。それ以来、この裏路地では時折、誰も押していない台車の車輪音が聞こえるという。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。