ラーメン

写真怪談

棚に並ぶ記憶

都内のビルの一角、北海道のアンテナショップに入ったときのことだった。ふと目に留まったのは、棚一面に並ぶ袋麺やレトルト食品。そのどれもが、遠い昔を呼び覚ます匂いを放っていた。学生時代、ひとり暮らしを始めてすぐの頃。金もなく、よく食べていたのは、湯切りのお湯をスープにする独特なスタイルの“あのカップ焼きそば”だった。深夜の台所で湯を沸かす音と、アパートの古い壁を伝うような人の気配。そのとき隣室に住んでいた青年が、不意に姿を消したことを、今も鮮やかに思い出す。警察が来て、部屋は封鎖された。理由は聞かされなかった。けれど僕は知っていた。あの夜、壁越しに聞いたすすり泣く声を。麺をすする音に混じって聞こえてきた、誰かの嗚咽を。記憶はそこまでのはずだった。だが目の前の棚に視線を戻すと、あり得ないことが起きていた。商品パッケージの印刷された人物の笑顔が、わずかに揺らめいている。ほんの一瞬、袋の透明窓から覗いたのは、見覚えのある隣人の横顔だった。湯気に濡れた額、そして歪んだ口元。耳元で音がする。袋を揺らすような、乾いた麺が砕...
写真怪談

器の底に沈む影

昼下がり、赤いカウンターに置かれたラーメン。湯気の立ち上るその姿に、私は妙な既視感を覚えた。スープをすくうと、表面に浮かぶ油膜が人影のように揺れる。偶然だと思いながら麺を持ち上げた瞬間、空気がざわりと震えた。麺は口に運んでも減らなかった。何度すすっても、同じ量が器の中に戻っている。食べ進めるほどに、むしろ具材が増えていく。チャーシューは重なり合い、メンマは束になり、やがて器の縁から溢れそうになる。「これはおかしい」とレンゲを沈めたとき、器の底に何かが映った。それは私自身の顔――しかし、ほんの少し遅れて動いていた。まるで水鏡に映る影が、別の時間を生きているかのように。慌てて顔を上げると、店内は無人だった。けれど器の中には、確かに“私ではない誰か”が沈んでいた。その瞬間、麺が器から跳ね上がり、口を塞ごうと絡みついてきた。私は慌てて箸を置いたが……器の中の影は、まだじっと私を見上げている。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。
ウラシリ怪談

二十分のあと

とある地方のラーメン店。その店には、近頃まで「20分以内で食べてください」という貼り紙が掲げられていたそうです。ある日、その制限が撤去された直後、閉店間際にだけ現れる客がいると話題になりました。誰も入ってこないはずの時間帯、厨房から「ずるっ、ずるっ」と麺を啜る音だけが響いていたといいます。覗くと、そこには客の姿はなく、湯気の立つ丼だけがテーブルに置かれている。しかも、その丼は、どの客が食べていたものよりも麺が減っていたそうです。一度、その音の正体を確かめようと監視カメラを設置したところ、記録には「誰もいない店内で、麺が宙に吸い上げられる」様子が映っていたのだとか……今では、その丼だけが毎晩20分以上かけて、静かに空になっていくそうです…この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。「怖い」「高圧的」…「御食事は20分以内」に異論噴出 ラーメン二郎府中店が謝罪「ご迷惑と不快感もたせた」