両替機の裏口

写真怪談

深夜の駅構内、人気のないロッカー横に一台の両替機が佇んでいた。
旅先で小銭を必要とした青年は、迷わず千円札を差し込む。
機械は規則正しく唸り、硬貨が落ちるはずの口から──何も出てこなかった。

不審に思いながらも覗き込むと、空洞の奥にもう一枚の札が見えた。拾おうと指を伸ばした瞬間、隙間が吸い込むように広がり、青年は腕ごと引き込まれた。

気がつくと彼は、同じ駅構内に立っていた。だが照明は古び、壁に貼られたポスターは何十年も前の日付。通りすがる人々はモノクロの影のようで、誰も彼に気づかない。慌てて両替機を探し、もう一度千円札を差し込むと、今度はきちんと硬貨が出てきた。

安堵した青年は硬貨を掴んで振り返る──そこは確かに現代の駅で、先ほどまでの異界は影も形もない。ただ、手にした硬貨はどれも旧硬貨で、すでに使用が終わったはずのものばかりだった。

そしてポケットを探ると、残っているはずの千円札が一枚もない。
奇妙なことに、両替したはずの硬貨は数日後、どれも忽然と消えていた。まるで現実に存在していなかったかのように。

青年は気づく──本当に消えたのは千円札ではなく、自分の“時間”の方だったのではないか、と。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

 

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