駅の地下通路に置かれた二台の公衆電話。
鮮やかな緑色のその筐体は、今やほとんど誰も振り向かない。
しかし、深夜零時を過ぎると、必ず片方の受話器が持ち上がっている。
誰も触れていないのに、受話口からかすかな呼吸音が漏れ、耳を近づけると低い声が呟くという。
「……こちらに来て」
ある駅員が興味本位で耳を当てた。するともう片方の電話が突然鳴り、間髪入れずに応答してしまった。
二つの受話器を結ぶようにして、どちらからともなく囁き合う声が響き始める。
「替われ」
「替われ」
「替われ」
駅員は恐怖に耐えきれず受話器を戻したが、次の日から姿を見せなくなった。
残された記録によれば、監視カメラには彼が最後に立ち寄った電話機の前でじっと立ち尽くし、空の受話器に耳を押し当て続ける姿が映っていたという。
以来、その電話に触れた者は、もう一方の受話器から必ず呼ばれる。
そして応じた瞬間、現実と通路の隙間に引き込まれてしまうのだ。
この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。
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