草に隠れた三番線

写真怪談

夏草に覆われた無人駅。
ホームの番号札「3」だけが、今もまっすぐ立っている。

だが、この駅に三番線は存在しない。
線路は二本しかなく、地図にも三番線の記録はないのだ。

夕暮れ時、旅人がその「3」の標識を見上げていると、不意に風景が歪んだ。
草がざわめき、そこに見たことのない線路が一本現れる。
まるで草の中に隠されていたかのように、暗く湿った鉄の軌道がのびていた。

その線路の奥から、足音が近づいてくる。
列車ではない。靴音だ。数え切れぬほどの人々が、闇の中からこちらへ歩いてくるのだ。
彼らの顔は草に覆われていて、目も口も見えない。
ただ「まだ間に合う」と繰り返し呟きながら、ホームを通り過ぎていく。

やがて彼らは、誰もいないはずの三番線に並び、何かを待つ姿勢をとった。
しかし、列車は来ない。
その代わり、旅人のすぐ背後から、錆びたベルの音が鳴った。

振り返ったとき、三番線も、人影も、もうどこにもなかった。
ただ番号札の「3」だけが、ひどく場違いに立ち続けていた。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

 

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