錆びた籠の中の囁き

写真怪談

庭の片隅に吊るされた、錆びの浮いた透かし彫りの鉄籠。
その形は紅葉の葉を模しているが、じっと見つめていると葉の隙間から「目」がこちらを覗いているように思えた。

ある夜、風もないのに鉄籠がわずかに揺れた。
中から小さな声が漏れ出す。囁き声のようでもあり、泣き声のようでもあるそれは、聞き取ろうと耳を澄ませば澄ますほど意味を持ちはじめる。

──出してくれ。
──苦しい。

声はそう繰り返していた。
翌朝、鉄籠の下に植えられた葉の一部が黒く変色しているのに気づいた。まるで声を吸い込むように、葉脈から滲み出た闇が広がっていた。

近所の古老が言うには、その籠は元来「灯籠」として使われ、魂を閉じ込めるための道具だったらしい。
炎とともに消えるはずの影が、何らかの理由で留め置かれてしまったのだ。

そして今も籠は揺れる。
囁きは夜ごと増していき、やがてははっきりとした「誰かの名」を呼び始めるという。
もしそれが自分の名だったなら──二度と庭には戻ってはならない。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

 

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