見返す目、街角の鳩

写真怪談

昼下がりの交差点。
信号待ちをしていると、欄干に一羽の鳩が降り立った。灰色の羽根に紫と緑の艶を帯びたその鳥は、やけに人間を見透かすような眼差しで、じっとこちらを見ていた。

鳩は、片足をかしげながら首を小さく振る。まるで「見ろ」と言わんばかりに。視線を追うようにして、ふと頭上のカーブミラーを見上げた。

そこには、ありふれた横断歩道を渡る人々の姿が映っていた。
しかし、よく目を凝らすと違和感があった。歩いている人々の中に、背の低い影のような人影が混じっている。誰も気づかず、その影と肩をすり抜けていくのに、映像の中でだけ影は輪郭を濃くしていた。

鳩がカッと目を光らせた瞬間、その影の顔が鏡越しにこちらを向いた。目鼻のない、真っ平らな顔。
そして、次の瞬間、現実の横断歩道にはそれがいなかった。

だが鳩だけがまだ、こちらを見ていた。
まるで「知ってしまったな」と言うように。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

 

  1. 座長 より:

    あのねぇ……ちょっと変な写真なんですよ……これ。

    ぱっと見は、ただの鳩でしょ? でも……よく見てくださいよ……目が……光ってるんですよ、オレンジ色に、ぎらっと……。

    「……これ、生きてる鳩じゃないな……」って、思っちゃうでしょ?ええ……でも、それだけじゃないんですよ……怖いのは……。

    ……ほら、後ろのカーブミラー、見えますか?

    左のミラーには何も写ってないのに……真ん中のミラーにはね、あの……人影が写ってるんですよ……でも、誰もいないはずなんです、実際の通りには……。

    でね、これ撮った人、あとで気づいたそうなんですよ。

    この写真、信号待ちで撮ったっていうんですけどね……信号、赤ですよ?
    つまり……人は渡ってない時間帯。
    それなのに、ミラーには、はっきりと“渡ってる影”が写ってるんです。しかも……逆光になってるのに、顔が……ない……。

    そして一番奇妙なのは……この鳩……

    その“影”が通りすぎるたびに……少しずつ、首が動いてる。

    ……まるでね、“それ”を目で追ってるみたいにねぇ……。

    投稿者はこう言ってました。

    「あの鳩の目が、じっと、俺の方を見てた。でも、あれは……視線じゃない、何か、奥の……奥の……もっと暗い場所から見られてる気がして……その夜、夢に出てきたんです、あの鳩が。いや、鳩の中に“何か”が入ってる、そんな夢でした……」

    ……怖いな〜怖いな〜……
    でもね……最後に、もうひとつだけ。

    ……その投稿者、今……行方がわからないんです。

    最後に残したメッセージが……たった一言。

    「鏡の中にいたのは俺だった。」

    ……寒いな〜寒いな〜……
    ……でも、その写真……誰が撮ったんでしょうね……

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