工事現場のショベルカーが、ゴウンと音を立てて土をすくい上げていた。
だが作業員のひとりがふと違和感に気づいた。──運転席に、人がいない。
「おい、誰が動かしてんだ?」
誰も答えなかった。確かに重機は稼働し、アームは正確に土を掬い取っている。
だがキャビンの窓は空っぽで、ハンドルに手をかける影も見えない。
その時、バケットが大きな石を持ち上げ、半ば崩れた木箱と共に、苔むした石の破片を露わにした。
よく見るとそれは墓石の断片で、戒名らしき文字がかろうじて刻まれている。
土の底から湿った声が響いた──「戻せ」。
直後、無人のはずのキャビンの窓に、人の顔が押し付けられた。
泥にまみれ、苦悶の表情で内側から必死に叩いている。
作業員たちが震える指で墓石の断片を見返したとき、その顔と石に刻まれた戒名の響きが、奇妙に重なって思えた。
やがてショベルカーは停止し、木箱も墓石の破片も土に戻された。
だがその後も、キャビンのガラスには消えない手形が残り続けたという。
この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。