深夜の大都市のバスターミナル、最終便のバスが発車した後の停留所は、ガラス越しの光とエンジンの残響だけが漂っていた。
一台のバスが静かに入ってきた。時刻表示は午前3時11分。こんな時間の便など存在しないはずだ。
乗降口が開き、中から降りてきたのは、黒いスーツの男。
彼は何も言わず、停留所のベンチに腰を下ろすと、じっと目を閉じた。
次の瞬間、まるでバスの車内から吹き出すように、同じ顔の人々がぞろぞろと降りてきた。
それぞれが同じ服装、同じ体格、同じ仕草でベンチや地面に座り込み、静かに呼吸をしている。
しばらくして、バスの運転手が無言で笛を吹くと、その全員が一斉に立ち上がり、再び車内へ戻っていった。
そしてバスは滑るように走り去った。
残されたのは、ベンチの上に置かれた一冊の時刻表。
開いたページには、午前3時11分発の便がびっしりと並び、行き先にはすべて「∞」の記号が印字されていた。
この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。
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