夏祭りの人混みの中、鮮やかな朱の狐面を被った女がいた。
目元の金縁から覗く瞳は、笑っているようにも、怒っているようにも見える。
私はふと足を止め、その視線を受け止めた。
次の瞬間、群衆のざわめきが遠のいた。周囲の色が褪せ、金魚すくいも綿あめの匂いも消える。
残ったのは、私と女だけ。
「この面、似合うと思う?」
女の声は、耳元ではなく頭の奥に直接響いた。答える前に、面の口元が微かに動いた。
そして、女の目が――瞬きをしたのだ。だが、瞬きをしたのは、面の方だった。
気づけば女は消え、手元には見知らぬ狐面があった。
それは、私の顔に吸い付くように貼りつき、外そうとするたび、内側から爪のようなものが肌を押さえた。
次の夏祭りまで、この面は外れないだろう。
そしてその時、瞬きをするのは――私の番だ。
この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。