黒いリュックを背負い、紙袋を下げたまま、高い通路の手すりにもたれて街を眺めるのが癖の人がいた。夕方はまだ風が冷たいのに、その場所だけ金属がじんわり温かかった。まるで、ほんの少し前まで誰かが同じ姿勢で肘を置いていて、場所だけ残して去ったみたいに。
翌日も同じ場所に立つと、自分の肘のすぐ横に、もうひとつ丸いぬくもりがあった。隣には誰もいない。なのに紙袋だけが、ときどき空いた側へ引かれるように揺れ、底の箱が見えない何かに触れたような硬い音を立てた。
三日目、手すりの塗装に曇った楕円が二つ残っているのに気づいた。一つは通路側の自分の高さ、もう一つは柵の外側にあった。外から肘を置けるはずがない。しかもその外側の跡だけが、毎日少しずつこちらへ寄ってくる。四日目には、背中のリュックが誰かの胸に押されたみたいに前へずれた。
それきりその人は通らなくなったが、閉店後に巡回する警備員は、あの一角だけ手すりの塗装が妙に早く剥げると言う。人が凭れた脂の跡が、必ず二人分あるのだそうだ。片方は通路側。もう片方は、足場も何もない外側から、今も同じ高さで磨かれ続けている。
この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

