二月の半ば、その配送センターは、遅れを抱えたまま回り続けていました。大雪や強風、交通の混乱などが立て続けに起きて、予定どおりに荷物が動かなくなったのです。欠勤者も増え、担当区域の札が毎朝ひっそりと足りなくなる――そんな状態が続いていたといいます。
倉庫の奥には、台車に積まれた小包が壁のように重なっていました。注意書きには「積み上がると危険」とあり、まず小包をさばく、と決められていたそうです。手紙は後回しになり、宛先のある薄い紙だけが、同じ場所で何週間も待たされていました。
その「待たされた紙」に、変化が出たのは、欠配が日常になってからでした。封筒の端が、湿気では説明できない硬さを帯びる。糊の部分が、乾いた音を立てて剥がれる。宛名がにじむのではなく、黒さだけが増えていく。紙の中に沈んでいくみたいに見えたそうです。
事務所の壁には、前四半期の数字が貼られていました。小包は「四億二千四百万(+八%)」、住所のある手紙は「十五億(-九%)」。別の紙には「九十九%」とだけ大きく書かれていて、根拠の欄が空白だったといいます。ところが、その紙がいつの間にか差し替わっていたそうです。数字は同じなのに、罫線の位置がわずかにずれていて、最後の行だけ、空欄のはずの枠に赤い押印が増えていました。押されている文字は、消印の形に似ていました。
遅れていた手紙を、ようやく配達に回した日。配達員は、封筒の束を鞄に入れた瞬間、妙に軽いと報告しています。同じ枚数のはずなのに、紙ではなく空気を持っているみたいだったそうです。街へ出ると、郵便受けの投函口の奥が不自然に黒くて、覗くと吸い込まれそうに見えた、とも。
最初の異変は、投函した手紙が「届いたはず」だという実感だけが消えることでした。手紙はポストに入ったのに、“届いたこと”だけがこの世界から消える感じだったそうです。あとから思い出そうとしても、何通入れたか、どの家に入れたか、順路の途中だけが抜け落ちる。代わりに、足元の舗道に小さな紙片が増えていきました。拾うと、角が丸くなった宛名ラベルの切れ端で、書かれているのは家ではなく、人の名前だけだったといいます。
数日後、配送センターに、見慣れない小包が届き始めました。差出人は空欄。宛先は配送センターの住所で合っているのに、建物名の欄に「欠配」とだけ書かれている。中身は品物ではありませんでした。ある箱から出たのは、古い壁紙の一片。別の箱からは、鍵穴だけが付いた木片。どれも湿っておらず、土もついていないのに、開けた瞬間、誰かの家の匂いがしたそうです。物ではなく、部屋の気配だけが入っているみたいだった、と。
配送センターでは「短期的な混乱」と説明する文言が繰り返され、毎日、復旧のための評価が行われました。ところが、その評価表の未達の欄が、いつの間にか住所ではなく配達員の名前で埋まり始めたそうです。欠勤した者だけではなく、出勤している者の名も、順路番号の横に、消印のような赤で押されていきました。
最後に残った記録には、ある配達員が、配達不能になった住所へ向かったことが書かれていました。地図にはあるのに、現地には家がない。空き地の中央に、赤い郵便ポストだけが立っている。投函口の奥から、紙を揃える音が絶えず聞こえてくる。配達員は、未配達の束をそこへ滑り込ませたそうです。すると、台車の車輪が軋むような音が、地面の下から返ってきたといいます。
翌朝、その配送センターの受付に、小さな小包が一つ置かれていました。宛先は、昨夜の配達員。住所欄には自宅ではなく、制服の胸に付いている番号が書かれていたそうです。中には、未使用の封筒が一枚だけ。差出人のところに、赤い消印みたいな輪だけが押されていて、中には小さく「本日分」とだけ残っていました。
その後、その地区の手紙がどうなったのかは、誰も確かめていません。評価表の最新行だけが、毎朝きれいに更新され、未達の欄には宛先のない赤い輪が増えていく……そんな話を聞きました。
この怪談は、以下の記事をきっかけに生成されたフィクションです。
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Royal Mail blames bad weather and sickness for late deliveriesStrain on service means rounds are missed on a daily basis and parcels are prioritised over letters, says report

