三月末に“正式に”なるもの

ウラシリ怪談

工事の掲示は、どこにでもある文言でした。
安全柵。バリケード。カラーコーン。交通誘導員。作業音。迷惑と不便への理解……そういうものが、毎年どこかで繰り返されます。

冬の終わりから春先にかけて、とある区立の公園も同じでした。
公園の一部が閉鎖され、黒い柱のようなものが立つ。公衆無線に加えて、防災のための放送や救命の箱、そして情報表示のための“画面”まで一体になった設備だと説明されていました。利用できる機能は順番に増え、全部が使えるのは三月末から――そういう計画だったそうです。

その設備は、いかにも「独自の建造物」でした。
街灯より少し太い筒状の柱が一本。上部には小さな穴が規則的に並び、音を出す口のように見える。柱の途中には細い扉があり、緊急時に開ける箱が内蔵されているらしい。
そして柱のすぐ隣に、成人の背丈ほどの縦長の大きな画面が一枚、同じ土台から立ち上がっていました。普段は黒い鏡のようで、空や樹の枝や、通り過ぎる人影をそのまま映します。

一月中旬、工事中のその公園では、画面はまだ黒いままでした。
根元は金属の柵で囲われ、足元に新しいコンクリートの色が残っていました。近づくと、自分の輪郭が映る。子どもの声も犬の足音も、黒いガラスに吸い込まれていく感じがした。

その黒に、うっすらと文字が浮きました。
点灯、というより、濡れた跡が乾く途中みたいに現れて……消えます。

「目次」

案内用の画面にしては、不自然な言葉でした。
次の瞬間、文字は消え、代わりに何段もの行が現れました。住所の列です。番地まで細かく、改行しながら増えていく。どれもこの区のものらしく見えるのに、どれひとつ“公園”とは関係がない。画面はすぐに黒へ戻りました。

二月の上旬、別の公園でも同じ設備が立っていたといいます。
こちらは養生が外れ、柵も低くなっていました。画面はすでに白く光り、情報が流れるはずの雰囲気だけが整っている。けれど表示されたのは地図でもイベントでもなく、唐突な日時だけでした。

「令和〇年3月末」

その下に、数秒遅れてもう一行。

「正式にリリース」

誰に向けた言葉か、わかりません。
“正式に”とわざわざ書くと、正式ではない何かが、すでにそこに置かれているみたいに読めてしまいます。

その夜、近隣の集合住宅から、公園の画面が点いているのが見えたという話があります。
深夜の公園に、縦長の光だけが浮かび、文字がゆっくり入れ替わる。

「安全に十分配慮して」
「閉鎖」
「作業音」
「ご迷惑ご不便」

どれも、工事の掲示で見かける断片です。けれど画面に並ぶと、注意喚起というより“繰り返し覚えさせる文”に見えた、と言う人がいました。

春に入って、三月末の“正式”が近づくにつれて、奇妙なことが増えました。
画面の足元に、忘れ物がきれいに並ぶようになったのです。帽子。鍵。片方だけの手袋。小さな玩具。
落とした人が気づく前に、誰かが拾い上げたように、同じ向きで整列している。雨の日でも濡れたままではなく、乾いたものだけが並んでいる……そんな証言もありました。

監視カメラがあるわけではありません。
あるのは、「多様な機能」を備えたという柱と、隣の大きな画面だけです。

三月末。すべての機能が利用できるようになった、と案内は出たそうです。
それから、画面に「目次」が出ることはなくなりました。途中で途切れる音声も鳴らない。忘れ物も並ばない。
代わりに、朝の決まった時間だけ、画面が一秒ほど黒く沈んでから、何も映らないまま戻るようになったといいます。

その一秒に何が出ているのか、確かめた人はいません。
見ようとして近づくと、ちょうどその瞬間を外す。録画しようとすると、必要なところだけ白く飛ぶ。偶然かもしれませんが……。

ただ、“正式にリリース”されたはずの設備が、今もどこかの「目次」をめくり続けているように見えることがある――そんな話を聞きました。

この怪談は、以下の記事をきっかけに生成されたフィクションです。

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