凍る告知

ウラシリ怪談

ある年の1月の終わり、山地を中心に警報級の大雪が見込まれ、夜から幹線の高速や並行する一般道で「予防的通行止め」を行う可能性が高い――そんな緊急の注意喚起が出回ったそうです。
外出の出控え、冬用タイヤ、チェーン携行、早めの装着。配布物には、似たような言葉が箇条書きで並び、誰もがそれを「いつもの冬の指示」だと思ったといいます。

それが本当に配られたのは、山間部へ入る手前の、小さな休憩所でした。
夜を避けて出る人、夜のうちに抜ける人、配送の車。待合の長椅子に湿った息が落ち、ガラス越しに、雪がまだ降っていない闇だけが見えていたそうです。

配布物は二枚組でした。
一枚は外出自粛の検討と、通行止めの可能性。もう一枚は、冬装備の確認と、運行中止も含めた見直し。
その角に、小さなスタンプが押してあったそうです。

「1月26日 15時」

配られた日の表示ではありませんでした。
その場にいた者の多くが、まだ26日が来ていないことだけは確かに覚えていたといいます。時計も、レシートの時刻も、壁のカレンダーも、23日から24日へ沈みかけている夜だったそうです。

印刷の間違いだと思われました。
ところが、同じ束から取ったはずの紙を見比べると、26日のものと、23日のものが混じっていたといいます。
さらに妙なのは、その「未来の日付」の方にだけ、雪の予想が細かく書かれていたことでした。

多い所で60センチ、次の24時間で70センチ。
上空の寒気はマイナス9度。
数字は冷たく整っていて、まるで既に測り終えた結果のように並んでいたそうです。

休憩所の係員は、壁の掲示板に貼り直そうとしました。
すると、紙の端が指に張りつき、剥がすときに白い粉が落ちたといいます。雪ではありません。塩のように細かい霜が、室内で紙から生まれていたそうです。
その霜は、紙の文字ではなく、スタンプの周りにだけ輪を作っていたといいます。

夜が更けると、外の電光掲示が点いたり消えたりし始めました。
「通行止めの可能性」
「出控えの検討」
そこまでは普通でしたが、次の表示だけが、順序を間違えていたそうです。

「解除は昨日 15時」

昨日が、いつの昨日なのか。
誰も確かめられません。確かめに行ける状況ではなかったともいいます。すでに雪が入り、道路は閉じ、休憩所の出入口には、チェーンを巻くための車が並び始めていたそうです。

その列で、変なことが起きたといいます。
チェーンを巻こうとしてジャッキを差し込んだ瞬間、金属が鳴らず、代わりに紙が擦れる音がしたそうです。
地面に耳を近づけると、タイヤの下あたりから、薄い紙をめくるような音が、一定の間隔で繰り返されていたといいます。
一枚、また一枚。誰もめくっていないのに、風もないのに。

やがて、係員が配布物の残りを回収しました。
未来の日付の束だけを、袋に分けたそうです。
「混乱するから」と。

しかし翌朝、回収袋を開けると、26日のスタンプは一枚も残っていなかったといいます。
代わりに、全てが23日になっていて、あの細かい数字――60、70、マイナス9――も、どこにも書かれていなかったそうです。

雪は結局、予想の通りに積もりました。
ただ、予想された数字が、誰の手元にも残らなかった。
残ったのは、掲示板に貼られた紙の角にだけ、輪になって固着した白い霜の跡だったそうです。

通行止めが解けた後、その休憩所の掲示板は拭き清められ、配布物の束も新しくされたといいます。
けれど、貼り替えたはずの注意喚起の紙の角にだけ、今でも時々、まだ来ていない日付の輪郭が浮くことがあるそうです……誰も読めない形のまま。

この怪談は、以下のニュース記事をきっかかけに生成されたフィクションです。

【緊急発表】大雪による道路の交通障害に警戒ください ~今週末に名神・新名神等の予防的通行止めの可能性~

https://wwwtb.mlit.go.jp/chubu/oshirase/soumu2026012301.pdf

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