第十六報の折り鶴

ウラシリ怪談

ある大手の通販会社が、秋に外部からの攻撃を受けて止まり、長く復旧を続けていたそうです。年が明け、一月十四日、関西の出荷拠点でも物流の仕組みを使った出荷が再開され、扱える品目が急に増えた、と発表が出たといいます。

その知らせは、現場では「第十六報」と呼ばれていたそうです。コピーしてロッカーに貼る者もいれば、財布に折って入れる者もいた。止まっていたものが、ようやく動き出す――そう信じるための紙だったのかもしれません。

けれど再開の翌日から、同じ紙が別の形で見つかるようになったそうです。

梱包台の隅、パレットの角、出荷口の床。折り目のついた小さな折り鶴が、毎朝ひとつずつ増える。誰かの悪ふざけだと思われましたが、折り鶴の紙はすべて「第十六報」のコピーで、同じ文面の、同じ箇所が必ず破れていたといいます。破れはいつも「安全稼働を最優先」のあたりで、そこだけが指でつまみ取られたように抜け落ちていたそうです。

そして、その折り鶴は必ず、湿っていたといいます。雨の日でもないのに紙が冷たく、折り目の内側だけが水を含んでいる。床に置くと、にじみが広がり、にじみの輪郭が宛名欄の枠のような四角に見えることがあったそうです。

異変がはっきりしたのは、再開から一週間ほど経った夜だそうです。限定された拠点からの出荷で、納期が伸びると言われていた頃です。

深夜、出荷口の扉が、誰も触れていないのに開閉したといいます。トラックの接車灯が点り、誘導の合図灯まで点滅した。けれど、外のヤードには何もいない。風だけが入り込み、段ボールの匂いではなく、湿った土と古い木の匂いが流れてきたそうです。

扉の前には、ひとつの箱が置かれていました。新品の資材ではない。角が潰れ、テープが何重にも巻かれ、何度も戻ってきた箱のようだった。送り状の宛名欄は白く、誰の名前もない。ただ、品名欄だけが手書きで埋まっていたといいます。
「従来どおり」

箱を開けた者は、最初、空だと思ったそうです。緩衝材も品物もなく、底板だけがある。ところが、底板を持ち上げた瞬間、箱の内側に貼られた紙が、はらりと落ちた。折り鶴に使われていたのと同じ「第十六報」で、今度は折られていない、濡れた一枚でした。

紙には、印刷されていない行が増えていたそうです。宛名欄の枠の中に、薄い鉛筆の字がいくつも重なり、読むほどに、同じ言葉へ揃っていく。
「受け取った」
「受け取った」
「受け取った」

その文字は、箱の外ではなく、紙の“裏側”から押し出されたような跡で、指でなぞると、乾いていない墨のように指先が黒くなったといいます。黒は爪の間に残り、洗っても落ちなかった。

それ以降、折り鶴は現場だけでなく、届いた先でも見つかったそうです。箱を開けると、注文した品の上に、湿った折り鶴がひとつ。問い合わせても、誰も折っていない。折り鶴を捨てると、数日後、同じ鶴がまた届く。今度は何も買っていないのに、玄関の前に置かれている――そんな話が、いくつも集まったといいます。

第十六報は、復旧の知らせだったはずです。けれど、増えていったのは品目だけではなく、「受け取った」という誰かの報告だったのかもしれません。

その後、現場の掲示板から第十六報を外す動きがあったそうです。剥がした紙はシュレッダーにかけ、廃棄した。そうしたはずなのに、翌朝、出荷口の床には、湿った折り鶴がひとつだけ残っていた。折り目の内側に、鉛筆の跡がうっすらと見えたといいます。

「返送」

誰が、何を、どこへ戻しているのか。そこだけは、最後まで書かれていないそうです……。

この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。

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