ある町の「郵便の窓口」で、昼の時間帯だけ受付を休止する試みが始まったそうです。入口には案内が貼られ、「その間も機械の手続きは使える」とだけ、淡々と書かれていたといいます。
どこにでもある運用の話で、誰も気に留めないはずでした。
最初の兆しは、列でした。
休止の時間が近づくと、待合の椅子が埋まる。けれど外から見ると、誰もいない。ガラスに映るだけの“並び”が、確かに増えていく……そんな目撃が続いたそうです。
人の気配はするのに、咳も、会話も、紙袋の擦れる音もない。ただ、床に落ちる影だけが、足元にだけ溜まっていくように見えたといいます。
窓口が閉まる瞬間、発現ははっきりします。
シャッターが下りきる寸前、内側のカウンターに「番号札」が一枚だけ置かれる。誰も取りに行けないはずの位置に、いつも同じように。
そして閉まった直後、外の投函口の前に、いつの間にか二、三人が立っている。喪服なのか作業着なのか、色の判別がつかないほど暗い服。顔は見えない。視線だけが、窓口の“閉じた面”に貼りついているそうです。
彼らは、封筒を持っています。
どれも宛名が書かれていない。差出人もない。切手だけが貼られていて、角がわずかに湿っている。
その封筒が、投函口へ入る――はずなのに、誰も腕を伸ばさない。
ただ封筒が、静かに“滑って”いく。投函口が口を開けたわけでもないのに、紙が吸われるように消えていく……と、監視の記録に書き残した人がいたようです。
おかしいのは、投函した側ではなく、受け取る側でした。
翌日、その局の窓口に「届いた覚えのない不在票」が何枚も出てくる。住所は近所なのに、宛名だけが空欄。連絡先も空欄。
不在票に従って窓口へ行くと、係の人は困った顔で首をかしげ、こう言うそうです。
「こちらでは、受け取りの記録がありません」
けれどその瞬間、背後の掲示板に貼られた“昼休止の案内”だけが、わずかに膨らむ。紙が湿気を含んで、呼吸するみたいに。
残響は、もっと静かな形で続いたといいます。
昼休止が終わり、シャッターが上がると、カウンターの隅に小さな封筒が置かれている。誰も気づかない程度の薄さで、角が少し濡れている。
係の人が手袋で拾い上げても、封は開かない。糊の感触がない。ただ、紙同士がぴたりと貼りついて、剥がれない。
光に透かすと、中に何か書かれているように見えるのに、どの角度でも読めない。読もうとした人だけが、言葉を失うそうです。
封筒の内側から、声でも息でもない“湿った気配”が、指先へ移るからだといいます。
その後、その局では昼休止の時間を変えたり、やめたり、また戻したりしたそうです。
けれど、どの時間にしても「閉めた一時間」だけは、必ず誰かが並ぶ。ガラスにだけ映る列が、必ず出来る。
そして最後に残るのは、投函口の前に落ちる一枚の番号札だけだそうです。
番号は書かれていません。
紙の裏に、濡れた指でなぞったような跡だけがあり、そこだけいつまでも乾かないのだといいます……。
この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。
「昼時間帯の窓口業務の休止」における試行郵便局について
「昼時間帯の窓口業務の休止」における試行郵便局について - 日本郵便都市部への人口集中・地方の過疎化など急速な環境の変化の中で、今後も郵便局ネットワークを維持していくため、地域の特性に応じた窓口営業時間の弾力的な運用の一環として、「昼時間帯の窓口業務の休止」の試行を一部の郵便局で実施しております。


