駅前の夏祭りの帰り道。人ごみから少し外れた歩道で、五人の女性が並んで立っていた。
全員が浴衣姿で、後ろを向いている。髪をまとめ、帯を締め、誰一人としてこちらを振り返らない。
最初は気にせず通り過ぎようとした。
でも、近づくにつれ、何かがおかしいと気づいた。
まず、五人とも、まったく同じ靴を履いていた。
次に、帯の結び方までが全員一緒。浴衣の柄だけが違う。
それでも祭りの格好としては珍しくない。だが──
立ち止まったとき、自分の足元が急に濡れた。
雨なんて降ってない。しゃがんでみると、彼女たちの下、歩道の隙間から濁った水がしみ出していた。
しかもそれが、真ん中の女の足元だけから流れていた。
その時、五人のうち一人が、ゆっくりと手を上げて、髪を直す仕草をした。
……髪を直す指が、七本あった。
一瞬で背筋が凍った。動けなかった。
でも次の瞬間、隣の友人に肩を叩かれ、振り向いたら──
五人はもういなかった。
そこには乾いた歩道と、柵の向こうに灯りだけが残っていた。
この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。
……あのねぇ……この写真……ぱっと見は、浴衣姿の女性たちが並んでるだけに見えるでしょう……?
でも……よく見ると……背中側に並んでる五人……その足元を、一本だけ妙に白い“足”が横切ってるんですよ……。
ええ……左から三番目の女性の後ろあたり……ほら、ほかの人の影や靴とは違って……裸足みたいに、くっきり浮かんでる……。
「これ、生きてる人間じゃないな……」って、思ったんです……。
こういうの、夏祭りの夜に多いんですよ……浴衣や提灯に紛れて、誰も気づかないまま……。
でも……気づいちゃった人だけは……帰り道に、その“足音”を背後で聞くことになる……。
トン……トン……トン……ってね……。
……で、その足音……止まったと思った瞬間……肩に、冷たい手が乗るんです。
あなた……今、後ろ……振り向かない方が、いいですよ……。