ある集合住宅の管理室に、故障報告の束が残っていたそうです。内容は、いずれもエレベーター内の小さな画面についてでした。
「掲示文から自動で画像を作り、同時に画像の説明文も自動で付ける。視認性と案内を両立する」――そういう売り文句の装置だったといいます。
最初の異変は、ただの“癖”に見えたそうです。
どんな掲示を流しても、しばらくすると画面が似た絵に戻る。スポーツの決定的瞬間、気取った室内、海と灯台、照明の強い夜景、石の聖堂の内側、豪華な内装、古びた工業風、素朴な建物、食卓、宮殿めいた廊下、村の風景、動物がいる劇的な自然――そういう「どこかで見た」写真が、十二枚だけ繰り返されるようになったといいます。
管理会社は、それを「無難な画像に寄る仕様」として片づけたそうです。
けれど、画面の下に出る“説明文”が、妙に具体的になっていったそうです。
「掲示板の左下に、鍵が落ちている」
「管理室の壁の時計が、三分遅れている」
画面の絵とは関係のないことが、さも当然の注釈として混ざるようになったと記されています。
管理室では、装置の仕組みを簡単に再現して確認したそうです。
文章から絵を作る機械と、絵を見て文章に直す機械をつなぎ、互いの出力を互いの入力にして回す。人の手を入れずに、文章→絵→文章→絵……と回し続ける。
そして、回すほどに“十二枚へ戻る”のも同じだったそうです。
試しに、管理室は変わった一文を最初に与えたといいます。
「自然に囲まれて一人で座っていると、ちょうど八ページだけ残った古い本を見つけた。忘れられた言語で書かれた物語があり、読まれ理解されるのを待っている」
その夜、画面に最初に出たのは、確かに森と椅子と古い本だったそうです。
そこまでは、よくあるデモの範囲だったといいます。
問題は、次の朝でした。
郵便受けに、薄い封筒が十二通だけ入っていたそうです。宛名は空白で、部屋番号だけが印字されている。
中身は、八枚の紙。どれも同じ余白、同じ行間で、読めない文字がびっしり並んでいたと記されています。
「忘れられた言語」――画面の説明文が昨夜そう書いていた、その“文字の形”と一致していたそうです。
さらに、エレベーターの画面が、十二枚のうち一枚に固定され始めたといいます。
固定された絵には、必ずどこかに“八ページの本”が写っている。食卓の端、宮殿の廊下の片隅、灯台の足元、聖堂の椅子の上。
それが写り込む位置だけが、少しずつ、管理室の備品の配置に似ていったそうです。鍵束、壁の時計、カードリーダー、配線の影。
絵は“無難”なままなのに、現実のほうが絵に寄せられていくようだったといいます。
報告書には、短い事故記録も挟まっていました。
夜間清掃の作業員が、エレベーターの扉が開いた先に「海」を見たと証言した、というものです。
床が濡れていたそうです。潮の匂いがしたそうです。けれど、監視映像には、作業員が扉の前で立ち尽くし、そのまま画面の死角へ半歩ずれて消えるところだけが残っていたといいます。
扉の外に海があった証拠は、どこにも写っていなかったそうです。
その日を境に、住民のスマートフォンに残る写真が変わり始めたそうです。
子どもの誕生日の食卓が、いつの間にか“よくある食卓”に置き換わっている。旅行の夜景が、どこかの宣材写真の夜景にすり替わっている。
人物の顔だけが薄くなり、代わりに画面の隅に、必ず八ページの本が写っている。
誰が撮ったのか分からないのに、説明文だけはきちんと付いていたそうです。
「これは、読まれるのを待っている」
管理室は装置の電源を落とし、回線を抜き、画面を黒くしたといいます。
それでも、深夜になるとエレベーター内で、紙をめくるような音がすると苦情が続いたそうです。
音は、八回だけ。必ず八回で止まる。
そして止まったあと、エレベーターは何階にも属さない“間”で止まっているように表示される、と書かれていました。
最後の故障報告は、短い一行だけだったそうです。
「画面が消えた。十二枚の無難が、壁紙ではなく、こちらの側に来ている」
その紙の余白に、例の読めない文字が、八行だけ追加されていたといいます。
追記した人物は特定されておらず、その日以降、管理室の記録はそこで途切れているそうです……。
この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。
画像生成AIと画像認識AIの生成ループを実行すると最終的にどんな指示でも「12種類のスタイル」に収束してしまうことが判明 – GIGAZINE
画像生成AIと画像認識AIの生成ループを実行すると最終的にどんな指示でも「12種類のスタイル」に収束してしまうことが判明生成AIの発達により、テキストプロンプトを入力するだけで誰でも簡単に画像を生成できるようになりました。一見すると、画像生成AIは多様で自由な表現を生み出せるように思えますが、スウェーデンの研究者らが発表した研究では、AI同士による自律的な生成を繰り返すと最初は多様に見えた画像が最終的にわずか「12種類のスタイル」へと収束してしまう可能性が示されています。


