年末が近づくころ、見知らぬ番号から同じ文言の電話が増える、とある集合住宅の管理記録に残っています。
「以前、カニをご購入いただいた海産物会社です」
会社名は名乗らず、相手は少し訛った、たどたどしい話し方だったそうです。続けて、4L、5Lと呼ばれる大きさだの、脚はキュウリのような太さだの、身がぎっしり詰まっているだの、本来は四万、五万円が特別価格で一万九千八百円だの、言葉だけが妙に滑らかだったといいます。
その住戸の住人は不審に思い、電話を切ったそうです。切った直後、スマホの画面に、勝手に作られた連絡先のような表示が残りました。名前欄には、相手が口にしたはずの「以前、カニをご購入…」が途中で途切れたまま、登録されていたといいます。
数日後、代引きの荷物が届いたそうです。差出人欄は「海産物」だけで、住所も会社名も空白でした。受け取りを拒否しようとした瞬間、段ボールの内側から、呼び出し音が鳴ったと伝えられています。箱は未開封で、テープも切れていなかったのに、確かに着信音だけが、乾いた紙の奥で鳴り続けていたそうです。
管理人が立ち会って、箱を開けたといいます。中には「お得なカニ」とだけ印字された薄い紙と、冷えきった脚が入っていました。脚は太く、見た目だけは立派でしたが、割った途端にわかったそうです。中身が、スカスカだったのです。身がない、というより、空洞だけが残っていた。
しかし空洞はただの空ではなく、湿った潮の匂いと一緒に、細い紙片がぎっしり詰まっていたといいます。レシートのような紙が、細く裂かれて巻かれ、ほどくほど、同じ数字の列が何度も現れたそうです。数字は、その住戸の電話番号だったと記録されています。
その夜から、着信が始まったといいます。知らない番号ではなく、住人自身の番号から。画面には「自分」からの電話。出ると、あの訛りの声が同じ調子で言ったそうです。
「本当においしいから食べてほしいんです」
そして次の瞬間、声が入れ替わった。住人の声で、同じ文言が繰り返されたといいます。録音を試みたところ、音声ファイルの長さが不自然でした。二千秒前後のものが続き、ある時には、五千二百五秒を示すデータが残ったといいます。公的な相談窓口が「海産物の電話勧誘や送り付け」の相談が急増した年の数字と、妙に一致していたそうです。
さらに奇妙なのは、拒否しても終わらない点だったようです。「不要です」と断った回数だけ、箱の中の空洞が増える、と管理人は書いています。翌朝、集積所に出された生ごみ袋の中から、割れた脚が見つかったそうです。どれも身はなく、空洞の内側に、細い紙片が新しく貼りついていました。紙には、昨夜住人が言ったはずの「不要です」が、印字されていたといいます。
年が明ける前に住人は転居したそうです。番号も変えたとされています。
それでも、その集合住宅の共用廊下のどこかで、昼下がりにだけ、呼び出し音が鳴ることがあるらしいのです。受話器も端末もない場所から。
管理人の記録は、そこで途切れています。最後の行だけが残っていて、こう結ばれていました。
「今年も“特別価格”のはずなのに、値段の欄だけが空白のまま届くようです」
この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。
年末年始は急増する“カニカニ詐欺”にご用心 「ぎっしりつまったお得なカニ」届いたら中身がスカスカ…
年末年始は急増する“カニカニ詐欺”にご用心 「ぎっしりつまったお得なカニ」届いたら中身がスカスカ…(AERA DIGITAL) - Yahoo!ニュース12月上旬、ある日の昼下がり。都内で働く女性のスマホに見知らぬ番号から電話がかかってきた。「あのう、〇〇さんでしょうか。以前、カニをご購入いただいた海産物会社です」 そういえば数年前にカニ


