寄せ木の中に

写真怪談

ある地方都市で起きた、奇妙な行方不明事件の記録がある。
場所は、公園裏の資材置き場。古い楠(くすのき)の大木が何本も切り倒され、山のように積まれていた。梅雨前の草木が生い茂り、ほとんど誰も近づかない一角だった。

失踪したのは、中学生の男子──裕貴。
彼は友人と一緒に、森で昆虫採集をしていたが、夕方を過ぎても帰ってこなかった。

「たしかに見たんです、…あの木の隙間に、手が、入ってったんです」
唯一の目撃者である友人は、涙と震えで言葉にならなかった。

大人たちは、単なる転落か迷子と思って捜索したが、見つかったのは“折れたランドセルの紐”だけだった。
それは、木材の間に食い込むように挟まっていた。

さらに不可解だったのは、倒木のうち1本の断面。
内部が空洞になっており、人間の指のようなものが数本だけ突き刺さっていたのだ。乾き、木に埋もれ、もはや骨かもわからなかった。

警察は「動物の骨」として処理したが、写真を見た者の一人は、こう呟いたという。
「いや、あれ……指の向きが“内側から外に向かってる”」

以来、その場所では時折、木の山の中から「カサッ」と音がする。
風もないのに、ひとりでに草が揺れ、倒木の間に何かが潜っている気配がある。

夏になると、子どもたちの間で“ある言い伝え”が広まった。
曰く──
「木の中には人がいる。指を入れると、引っ張られて帰ってこれない」

それがいつからあるのか誰も知らない。だがその言葉は、今も公園の端でささやかれている。
まるで、木がそれを言わせているかのように。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

 

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