ある製造施設で、夜間も止まらないラインのために、新しい異常監視システムが導入されたそうです。
天井と柱に固定された十数台のカメラが、配管やタンク、作業通路を隙間なく見下ろし、別室のサーバーでは生成系のAIと組み合わされた監視ソフトが、映像とテキストを同時に解析する仕組みだったといいます。
このシステムの特長は、監視員ではなく現場の担当者が、自然な言葉で「異常」を定義できる点だったそうです。
「火花が出ている状態を検知する」「白い煙が一定時間続いたら通知する」「人が倒れている状態を検知対象とする」……そういった文章を入力すると、AIが映像の中から条件に近い状況を探し、ログとして残すようになっていたといいます。
導入初日、検証用のカメラは稼働しているものの、ラインは止まっており、人もほとんどいない夜間だったそうです。
配管に水をこぼしたり、作業員がわざと横たわったりして、想定どおりに検知されるかを点検していたといいます。
その途中、監視室の画面に、ひとつだけ違うアラートが上がったそうです。
「検知対象:人物が倒れている状態」と、いつもと同じ形式のテキストが表示されていたにもかかわらず、添付されたサムネイルには、何も映っていなかったといいます。
問題のカメラのライブ映像を開いても、そこには、白いラインで区切られた通路と、壁に立てかけられた梯子があるだけだったそうです。
倒れている人影など、どこにも見当たらなかったといいます。
担当者たちは、検知の枠が手すりや影を誤認したのだろうと考え、その場では「誤検知」として処理したそうです。
しかし、ログの詳細画面には、AIが自動生成した短い説明文が添えられており、そこにはこう記録されていたといいます。
「床に横たわる人物。動きなし。危険な状態の可能性。」
画像を拡大しても、床はきれいに磨かれているだけで、やはり何も映っていなかったそうです……。
数日後から、同じ通路での検知が、じわじわと増え始めたといいます。
最初は週に一度程度だったアラートが、やがて一晩のうちに二度、三度と繰り返されるようになったそうです。
奇妙なのは、検知された時刻のどれも、監視室の担当者がライブ映像を確認した瞬間には「誰もいなかった」ことでした。
それどころか、アラートの一覧には、こうした文章が混じるようになっていったといいます。
「通路の端に立つ人物。カメラの方向を見ている。」
「手すりの影から上半身を出している人物。安全上の懸念あり。」
しかし、再生ボタンを押しても、映像の中で変化しているのは、換気に揺れる紙片と、通路の奥で微かに瞬くランプだけだったそうです。
人物らしきものは、最初から最後まで、どこにも映っていなかったといいます。
システムの担当者は、誤検知を減らすため、文章で定義していた「異常状態」の条件を絞り込んでいきました。
「人が倒れている状態」だけを検知するようにし、立っている人物や、作業中の動きは無視するように設定したそうです。
ところが、その夜から、ログに残る説明文の調子が変わったといいます。
「床に横たわる人物。顔はカメラ方向に向けられている。」
「倒れている人物のそばに、立っている別の人物。フレーム外。」
「倒れている人物の周囲に、複数の人影。姿勢が不明瞭。」
いずれの映像にも、人影はひとつも映っていなかったそうです。
ただ、画面の中央付近にだけ、圧縮ノイズのような細かな揺らぎが、かろうじて残っていたといいます。
それは、人の輪郭というにはあまりに不定形で、しかしカメラだけが、そこに何か「いる」と判断したように見えたそうです……。
ある晩、担当者のひとりが、ログをさかのぼって眺めているうちに、別の異変に気づいたといいます。
「異常状態」を記述するために、彼らが入力した文章は十数種類に限られているはずでした。
しかし、ログに残された説明文の中には、誰も入力していない言い回しが、いくつも混じっていたといいます。
「ここにいてはいけない人物。」
「名簿に存在しない姿。」
「監視対象ではないもの。」
監視ソフトは、映像から自動的に言葉を生成する仕様ではあったものの、「名簿」という単語を、誰かが条件として与えた覚えはなかったそうです。
通路のその場所は、もともと非常時の避難経路であり、現在は人が通ること自体がほとんどないエリアだったといいます。
念のため、その区画を巡回した作業員の記録も残されていましたが、異常は何も確認されなかったそうです。
ただひとつ、その通路だけは、照明の蛍光灯が他の場所よりも早く寿命を迎え、何度交換しても、すぐにちらつき始めるのだといいます。
やがて、管理側の判断で、そのカメラだけが、システムから切り離されることになったそうです。
配線を外し、レンズにキャップを付け、電源も遮断し、「使用停止」の札をぶら下げたといいます。
しかし、その夜のログには、いつもと同じ形式で、新しいアラートが記録されていたそうです。
「検知対象:不明の人物。
ステータス:カメラが存在しない場所から撮影されている可能性。」
添付されたサムネイルは、真っ黒な画像だったといいます。
映像の情報量はほとんどゼロで、ノイズさえも目立たなかったそうです。
ところが詳細画面には、信号として解釈されたわずかなパターンを、AIが言語化したと思われる文章が続いていたといいます。
「レンズの反対側からカメラを見ている人物。
その人物の周囲には、監視されているものは何もない。」
その日を境に、システム全体に不具合が出始めたそうです。
別のラインで煙を検知するはずのカメラが、何も起きていない時間帯にアラートを出したり、液漏れを検知する設定のカメラが、乾いた床を「異常」と判断したりするようになったといいます。
ただ、不思議なことに、どのログを開いても、文章の最後には必ず、同じ一文が添えられていたそうです。
「ここには誰もいない。」
監視システムは、その後も更新と修正を重ねながら運用されているそうです。
問題の通路のカメラは、現在も停止したまま、レンズにキャップを付けた状態で、天井から吊られているといいます。
それでも定期的に、「存在しないはずのカメラ」からの検知ログが、サーバーの片隅に増え続けているそうです。
誰もその座標に足を踏み入れず、設定画面も開かず、データの削除さえ行われないまま、ただ積み重ねられていくといいます。
やがて、監視システムの運用担当が交代し、「最初の異常」を知る者が現場からいなくなったとき、このログが何を記録しているのか、改めて確かめる人は、ひとりもいなくなるのかもしれません……そんな話が、内部メモの片隅に残っているそうです。
この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。
生成AI技術で柔軟性の高い異常監視を実現「ANOMALY WATCHER」とVLMの連携により新たな検知手法を提供|ニュースリリース|キヤノンITソリューションズ
生成AI技術で柔軟性の高い異常監視を実現「ANOMALY WATCHER」とVLMの連携により新たな検知手法を提供|キヤノンITソリューションズキヤノンITSは、キヤノンや他メーカーの製品開発で培った画像処理技術とAI開発力を生かし、現場の監視業務を高度化/効率化するソリューションの提供を進めています。


