関東地方の、とある大きな駅を中心に広がる「鉄道の町」では、毎年11月22日に鉄道フェアが開かれています。
駅構内や車両基地、公園や商店街までを巻き込んだ行事で、近年は、街を巡りながら撮影した写真を投稿する「周遊フォトコンテスト」も行われているそうです。
このコンテストに、毎年、必ず紛れ込む写真があるといいます。
スタッフのあいだでは、いつの頃からか、それを「周遊写真」と呼ぶようになったそうです。
コンテスト当日、控室のパソコンには、家族連れや列車を写した写真が次々と届きます。
その中に必ず、一連の不思議な写真が混ざっているといわれます。
どの年のものも、構図はほとんど同じです。
駅と車両基地を結ぶ歩道橋を、さらに高い場所から見下ろすような俯瞰の景色。
その下には、ミニ列車やテントが並ぶ会場全体が、模型のように小さく広がっています。
ところが、その駅に、そんな高さから撮れる場所はありません。
立入禁止の屋上も、仮設の足場も設けられておらず、図面を見ても該当しそうな位置はないといいます。
写真の中には、必ず三つの影が写っています。
歩道橋のたもとの細い通路を、背の高い影と、その隣の少し低い影、そして前を小走りに進む小さな影が、一列になって歩いています。
顔も服も判別できないのに、三人の間隔や傾きはどの年もほとんど変わらず、まるで同じ場面を何度も写したように見えるそうです。
さらに拡大すると、会場のあちこちにある時計や電光掲示板が、すべて「11:22」で止まっていることに気づきます。
車両基地の事務所の壁時計も、ホームの発車案内も、ステージのタイマーも、秒針を含めて一斉に11時22分を指したまま動いていません。
にもかかわらず、画像データに記録された撮影時刻は、朝の9時台だったり、午後の3時過ぎだったりと、ばらばらだといいます。
ある年の11月22日、駅構内の大型モニターで、コンテストの応募作品をスライドショーにして流す試みが行われました。
電車を背に笑う子ども、商店街のワークショップの様子、ロードトレインが走る通り。
数秒ごとに写真が切り替わり、人の流れもざわめきも、いつも通りだったといいます。
やがて、構内の時計が11時22分に近づいたころ、モニターの映像がふっと切り替わりました。
周囲の音が少し遠くなったかと思うと、画面には、あの俯瞰の景色が映っていました。
歩道橋のような構造物と、下を走る複数の線路。
その脇の通路を、あの三人の影がゆっくりと歩いています。
風に揺れる旗も、行列に並ぶ人の肩も、画面の中ではその瞬間だけ完全に止まり、動いているのは三つの影だけに見えたといいます。
構内の時計はいずれも11時22分を指したまま、しばらく針を進めませんでした。
写真の中の三人が歩道橋の下をくぐり抜けたあたりで、唐突に秒針が動き出し、モニターも何事もなかったように次の写真へ切り替わりました。
そのとき、足を止めていた人たちも、すぐに歩き始めてしまったそうです。
「少し画面が止まったような気がした」とこぼす人はいましたが、細かな場面を覚えている者はほとんどいなかったといわれます。
後日、モニターに映ったあのカットを探そうとしても、応募フォルダのどこにも同じ画像は見つかりませんでした。
代わりに、倉庫の奥から引き上げられた、過去の鉄道フェアのポスターが目についたといいます。
十年前、二十年前と年号の違うポスターの背景に、似た俯瞰写真が何度も使われていました。
どれも、駅と車両基地を見下ろす構図で、遠くに三人組らしき小さな影が写っています。
拡大すると、三人の間隔も歩く向きも、現在の「周遊写真」の三人とよく似ており、壁時計の針は、やはり11時22分で止まっていました。
さらに古い印画紙の束の中には、フェアがまだ小規模だった頃の写真も混ざっていました。
テントの並びも、並走する線路の数も現在とは異なるのに、その中の一枚だけ、今とほとんど変わらない通路と列車が写り込んでいたといいます。
封筒の端には、かすれた字で「この家族の写真は使わないこと」とだけ書かれていたと伝えられています。
それ以来、この鉄道の町では、周遊フォトコンテストの選考で「会場全体を高い位置から撮影した写真は対象外」とする決まりが、さりげなく加えられたそうです。
ただ、その決まりができてからも、11月22日のあとには、ときどき同じ噂が聞こえてきます。
スマートフォンでその日の写真を見返すと、撮った覚えのない一枚が、アルバムの中に混ざっている。
駅と車両基地を見下ろす景色で、どこかに三つの影が写っている。
削除しても、翌年の11月22日になると、別のフォルダの中でひっそり復活している。
よく見ると、三人の影の服装や持ち物は、少しずつ今の流行に近づいているようにも見えるそうです。
ただ、どの年の写真でも、三人が歩いている場所だけは変わらず、通路の同じ線の上に重なっているといいます。
この町では、「11月22日の11時22分、駅と車両基地をつなぐあの辺りは、いつも一枚の写真に撮られている最中なのだ」とささやく人がいます。
その写真を撮っているのが誰なのか、そして三人の影がどこへ向かっているのかは、誰にも分からないままのようです。
この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。
「鉄道のまち大宮 鉄道ふれあいフェア」を開催します
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