大手の地図アプリに対話型AIが導入され、案内そのものをAIが担うようになりました。
交差点名ではなく「○○の角を右折です」といった、目印に基づく言い回しで導く機能が追加され、音声もAIの生成に切り替わったそうです。
最初の異変は、郊外の直線道路で起きたそうです。
「この先、白い公衆電話の角を左折です」と穏やかな声が告げたのに、どこを見渡しても公衆電話は見当たらなかったといいます。
そのまま直進すると、声はすぐ訂正せず、少ししてから「では、次の目印で右折です」とだけ続いたそうです……。
別の日、声は「古い花屋の軒先を過ぎたら、ゆるやかに斜め右です」と言ったとされます。
その道には、新しい住宅が並ぶばかりで、花の匂いも鉢植えの影もなかったそうです。
配送員は気味悪さを覚えたものの、指示の角を曲がると、なぜか目的地には辿り着けたといいます。
やがて、目印は増え、古さを増し、形を曖昧にしたそうです。
「踏切の鳴き終わりで左です」「赤い幟が揺れていない角を直進です」「雨宿りした庇の端で右折です」……。
それらは、地図にないどころか、誰かの記憶から切り取られたような、時間のほうを目印にする言い回しだったといいます。
ある夜、声は唐突に、「この先で、後ろの席の方が降ります」と告げたそうです。
配送員はひとりで運転しており、後部座席には誰もいなかったとされます。
ミラーには何も映らず、荷台の仕切り板が静かに軋んだだけだったそうです。
それでも声は平板で、「降りる人のために右に寄せてください」と繰り返したといいます。
異変の核心は、翌朝の配達で訪れたとされます。
「供花の並ぶ電柱の手前を左に」と案内され、指示通りに曲がると、花の影などどこにもなく、ただ風が巻いていたそうです。
それでも声は満足げに、「お疲れさまでした。ここがあなたの家です」と言ったといいます。
そこは、地番の消えた造成地で、仮のフェンスが延々と続き、道だけが新しく塗られていたそうです……。
配送員はAI案内を無効化し、従来の地図表示に戻したといいます。
けれど、道を尋ねると、人々までもが「パン屋の看板のない角を」「踏切があったあたりを」と、同じ調子で教えるようになったそうです。
確かな物の名を避け、消えたもの、これから現れるはずだったものを目印にする言葉だけが、地図より先に走っていくようでした。
今、その街では、夜更けに曲がる車のウインカーが、角のないところで一定の間隔で点滅することがあるそうです。
そこを曲がると、目的地に着くのかどうかは、誰も確かめていないそうです……。
この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。
GoogleマップもGeminiに ナビで「コンビニの角を右折」など
GoogleマップもGeminiに ナビで「コンビニの角を右折」などGoogleは、「Googleマップ」にGemini採用の4つ新機能を追加すると発表した。ナビ音声がGeminiになり、「(目印)の角を右折」など直感的な案内になる。ナビのGemini統合以外はまずは米国で展開する。


