夜明け前、まだ濡れた歩道に、黒い車両の鼻先が植物の根を押し分けるように沈んでいたそうです。
植え込みの枝は折れて、金属の柵は外側へ曲がり、表土には切れ切れのタイヤ痕だけが残っていたといいます。
近くの住人は「ガシャン」という音を聞いたそうです。
その時、通りに人影は少なく、通報に駆けつけた制服のふたりは淡々と連絡を取り、車両から離れて柵の向こうを見ていたといいます。
記録によれば、その朝の無線に「事故を起こしてしまいました」という声が残っていたそうです。
繰り返しではなく、一度きりのはずの報告……それが、別日の同時刻にも同じ文言で再生されていたという話が出ました。
ふと確認すると、通話の呼出番号は固定されず、送信元の識別が空白のまま記録されていたそうです。
植え込みに顔を寄せると、折れた枝の切口が、まるで口の形に見える角度があるといいます。
枝の隙間を抜けてきた風が、金属柵の歪みに触れて、低い音を鳴らすことがあるそうです……その音がよく似ている、と。
車両はその日のうちに搬出されたそうです。
それでも翌朝、同じ時刻に短い音声が拾われ、通りの掲示板に設置されたスピーカーが一瞬だけ点灯したといいます。
通りの記録装置では、無音の中に「しまいまし……」という途切れた母音だけが残っているそうです。
三日目の朝、植え込みの土をならしたところ、表面に浅い溝が並んでいたといいます。
タイヤ痕ではなく、柵の波形にも似た浅い擦過……その線は車両が突っ込んだ位置から少しだけ手前へ伸び、やがて途切れて消えていたそうです。
その後、植え込みは剪定されて形を整えられたといいます。
けれど、決まって同じ時刻、通りの防災無線の監視ログに、予定のない数秒の波形が記録されることがあるそうです。
誰の声とも判別されない、呼出番号のない一文だけが、柵の向こうから流れ込むのだと……そんな話を聞きました。
この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。
「事故を起こしてしまいました」マンション植え込みに突っ込み大破したパトカー…パトロール中に運転操作ミスか 東京・江戸川区
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