声を預けた大会

【ウラシリ】怪談

その会社は、かつて「無料で観られる」大会配信を誇っていたといいます。
観客もスポンサーも、その透明な運営姿勢に信頼を寄せていました。
しかし、ある年の大会で、突如として“有料化”が発表されたそうです。
しかもそれを告げたのは、会社の社員ではなく、壇上に立つひとりの選手でした。
彼は大会視聴者に向かって、カメラ越しに、用意された文言を読み上げたといいます。

「今大会の配信は、次回より有料になります」――その言葉を、彼は何度も噛みながら。
けれど、声の震えとは裏腹に、会場にはざわめきも怒号もなく、ただ静かに空気が止まったそうです。
その直後から、配信映像のコメント欄に奇妙な現象が起きました。
「聞こえない」「返せ」「黙れ」――同じ言葉が秒ごとに現れ、まるで意思を持つように増えていったのです。

翌日以降、同社が運営する公式配信では、ノイズ混じりの音声が頻繁に報告されました。
再生するたびに音量が変わり、誰かの囁き声のようなものが入り込む……。
解析班がデータを調べても、録音にはその音が存在しなかったそうです。
まるで、あの有料化の告知が“誰かの声を犠牲にした”かのように。

やがて、大会再開のために別のステージが組まれたとき、またしても異変が起こりました。
スクリーンに映る映像の中で、選手たちの口がわずかにずれて動き、音声とは噛み合わなかったのです。
その口は、まるで同じ言葉を繰り返していたといいます。
「聞かせろ」「ちゃんと聞かせろ」「戻せ」……。

以降、深夜のサーバールームでは、電源を落としたスピーカーから“アナウンス音”が流れると噂されました。
そこには、大会の告知文と、誰かの嗚咽が重なっているのだとか。
再生ログには何も残らず、誰も録音に成功していません。

それは、声を置き去りにされた者たちの祟りなのかもしれません……そんな話を聞きました。

この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。

eスポーツ大会で有料化を発表 大会出場選手に告知を任せた企業対応に批判集まる

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