狐面の飲み方

写真怪談

翌年の夏祭り、私はまたあの通りに足を踏み入れた。
雑踏の中に、赤い狐面を被った者がいた。髪は短く、面も顔の上半分を覆うだけの簡素なもの。去年の女とは明らかに別人だった。

だが、私には分かってしまった。――あの目が、去年と同じまばたきをしていたからだ。

その人物は、手に持ったペットボトルを口元へと運んだ。口は面に覆われていないのだから、何の不自然もないはずだった。
けれど、確かに聞こえた。ゴク、ゴク、と液体が流れ込む音が――面の目の穴から響いていたのだ。
喉が鳴るたびに、眼窩の奥で何かが蠢き、まるで「人間の飲み方」を真似しているようだった。

私は息を呑んだ。あれは人ではなく、人を演じる何かだ。
来年、奴らはもっと上手に模倣するだろう。私たちと同じように歩き、笑い、食べ、やがて――区別がつかなくなる。

その時、瞬きをするのは、もう「人間の目」だけではないのだ。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

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