夜の繁華街を歩いていると、赤提灯の列が異様に目を引いた。
その灯りは温かくも見えるが、どこか血のように濃く、近づくほどに胸がざわつく。
ある居酒屋の前、提灯の影に妙なものが映っていた。
通り過ぎる人々の姿ではない。
痩せた腕のような影が、提灯から伸び、通りを行く人の背中を撫でる。
気づかれた瞬間、その影はすっと引っ込み、再び紙の灯りに吸い込まれていった。
奇妙なのは、通りを歩く客の笑い声だった。
影に触れられた者は、必ず足を止め、目の焦点が合わないまま笑い出すのだ。
その笑いは、酔いではなく、苦しみに似た響きを持っていた。
地元の人によれば、この店の赤提灯は昔から替えてもすぐに焼け焦げる跡が出るという。
その跡の形は、いつも「手の指」に似ているそうだ。
——赤提灯の下で、誰かが笑っている。
だがそれは、客でも店員でもない。
灯りそのものが、影を使って人をからかっているのだ。
この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。
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