最適座標

【ウラシリ】怪談

朝になるたび、無人駅の待合室で椅子の脚が白いチョーク線から数ミリだけはみ出していたそうです。昨夜、線の内側に戻して施錠したはずなのに、です。

地元の学生が「窓の景色を一番よく見られる最適な位置」を提案し、係員がそこへ固定した日から、ずれは始まったといいます。ゴム足が擦った薄い粉が、窓の方へ細い帯を引き、日ごとに角度が数分だけ変わっていたそうです……。

やがて椅子は、毎朝七時過ぎになると、光の差す向きとは関係なく壁の時計の下から伸びる黒い影が、窓枠と床目地と重なり合う一点に導かれるように止まったそうです。

その時刻、通学の子が腰を下ろした瞬間、待合室の外の景色が少しだけ薄れ、窓の向こうに同じ椅子が遅れて映ったといいます。その椅子は実物と重なるように揺れ、やがて一つに溶け合いました。その瞬間、子の姿だけがふっと薄れ、声だけが窓の内側から遅れて響いたそうです。

その後、椅子は空のまま残りましたが、窓の向こうには子が座ったままの影が貼り付いたように残り、掃除のたびに同じ高さに指の跡が増えていったといいます。椅子はもう動かず、チョーク線だけが靴底に擦られて薄くなっていきました。今もその最適な位置は空いているとされますが、誰もそこで確かめてはいないそうです……。

この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。

開業111年のJR無人駅一新 学生と児童協力「これからも一緒に」

開業111年のJR無人駅一新 学生と児童協力「これからも一緒に」:朝日新聞
「1」が並んだ開業記念日にJRの無人駅が一新され、鮮やかに生まれ変わった。大学生のアイデアをもとに子どもたちや住民も加わり、地域ぐるみで取り組んだ。目玉は待合室の大きな窓の前に置かれた小さないす。絵…

 

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