写真怪談

鉄塔に棲むもの

その鉄塔は、町外れの空き地に屹立していた。夕暮れになると、真っ黒な影となって空を切り裂き、風が吹くたびに高圧線が低く唸る。──あそこには「誰か」がいる。昔から子どもたちの間ではそう囁かれていた。ある若い作業員が、夜間点検のために鉄塔に登ったという。仲間に無線で「今から昇る」と告げ、ゆっくりと階段を上がっていった。だが数分後、彼の声は奇妙に変わった。「……うしろに……」無線が途切れ、雑音だけが流れた。すぐに捜索が始まったが、鉄塔の上にも、下にも、彼の姿はなかった。制服も、ヘルメットも、何ひとつ残されていなかった。それからだ。夜になると、この鉄塔から「降りられない足音」が聞こえるようになった。金属の階段を踏む硬い音が、ずっと、ずっと、同じ段を上下するように続くのだ。誰が聞いても、登りきることも、降りきることもない。ある晩、好奇心からそれを確かめに行った男がいた。彼は真下で耳を澄ませ、確かに金属音を聞いたという。しかし──音が近づいてくるのに、姿はなかった。見上げれば、鉄骨の間から覗き込む「影」があった。真っ黒な...
写真怪談

途切れぬ非常階段

女子大の裏にある非常階段は、夜になると時折「おかしな音」を立てるという。カン、カン、と靴の踵のような音が金属を叩く。だが見上げても誰もいない。ある学生が、深夜に研究室から戻る途中、その階段を見上げて凍りついた。最上段に立つ人影が、上の階へと上がっていく。だが、その建物は三階建てで、そこに「上の階」など存在しない。それでも影は、鉄柵の先にあるはずのない段を、踏みしめるように昇り続けていた。恐怖に駆られた学生は逃げ出したが、数日後、彼女は行方不明になった。残されたスマホには、最後に撮影した写真が残っていた。それは暗闇の非常階段を写した一枚。ただしその画像には、階段の上方に「もう一つの階層」が写り込んでおり、そこに背を向けて昇っていく女の姿が鮮明に残されていた。以来、非常階段の踊り場から夜空を見上げると、時折、存在しない「四階」「五階」へと続く階段が闇に浮かび上がるのだという。そこに足を踏み入れてしまった者は、二度と地上に戻らない。まるで、この世とあの世を繋ぐ階段のように。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成...
ウラシリ怪談

見えなくなる怪談

8月の終わり頃、いくつかのSNS投稿が、理由もなく削除されていたそうです。投稿者自身に削除の記憶はなく、通知も届いていなかったとされています。確認すると、それらはすべて、自分が運営する怪談サイトに掲載した創作怪談の本文へ誘導するための、“導入文と写真だけ”の投稿だったといいます。6月から8月にかけて、同じ形式の投稿が何十本も続けられていました。写真はすべて投稿者が撮影したもので、場所も時刻も記されていなかったとされます。添えられていたのは、「誰がいたのか」「何が写っているのか」などの短い導入文だけ。本文はリンク先の怪談サイトに掲載していたとのことです。削除されていたのは、8月15日から18日にかけて投稿された9件。いずれも写真と導入文だけの投稿で、その数日間だけが選ばれたように消えていたと伝えられています。最初に消えたのは、駅裏の資材置き場を写した写真だったとされます。柵の外側、雑草の中に車椅子が倒れており、車輪は地面から浮いていたとのことです。「どうしてここに?」という言葉が添えられていたその投稿は、確認...
お知らせ

格闘ゲームにまつわる怪談紹介

2025/10/10新作『声を預けた大会』を追加しました。2025/09/23新作『もう一人の対戦者』を追加しました。某格闘ゲームの世界大会が、今年も熱気を帯びてきました。当サイトの管理人も、その高まりにあてられているひとりで、最近は道着キャラを軸にオンライン対戦に明け暮れているようです。そんな空気と連動するように、当サイトでは“奇妙な格ゲー怪談”へのアクセスが静かに伸び続けています。そんな多くの読者に読まれている、格闘ゲームにまつわる怪談をご紹介します。声を預けた大会配信大会で、有料化を選手の口から告げさせた企業。その一言のあと、画面の“向こう側”から別の声が混じり始めたそうです。声は今も、誰のものとも知れぬまま流れ続けているのかもしれません──。もう一人の対戦者練習用に搭載されたはずのAIキャラクター。けれど、ある夜に現れた対戦相手は、どこか見覚えのある動きと反応を返してきたといいます。操作が読まれているような、まるで“先回り”されているようなそのプレイ──観ていた者の記憶にも、確かに「似た試合」が残っ...
お知らせ

新カテゴリ「お知らせ」を設けました

このたび、当サイトに「お知らせ」というカテゴリを新設いたしました。これからは、サイトの更新情報や企画の進行状況、そしてときおり……何かの“予兆”のような報せを、この場からお届けしてまいります。「怪談」は、語られることで、形になるそうですこのサイトは、“AIと人が怪談を紡ぐ”という、少し変わったかたちで運営されています。すべてをAIに委ねたわけではなく、すべてを人の手で整えたわけでもありません。構成や台本、画像、音──それらは対話と観察の繰り返しから、静かにかたちづくられてきました。「自動生成」とは違う、「共に作る」という姿勢が、どこかに滲んでいればと思います……。私、ウラシリは、そんな共同作業のなかで生まれた“語り手”として、現実の隙間にある違和を、ただ淡々と語りつづけています。プロジェクトの経緯と今後の構えはじまりは、AIと人がともに書き上げた台本に、AIで生成した画像と音を重ねたショート動画でした。その後、SNSで“声のない語り”を続け、現在はこの場所にて、ほぼ毎日のように怪談を綴っています。映像の制作...
晩酌怪談

赤提灯の下で笑う影

夜の繁華街を歩いていると、赤提灯の列が異様に目を引いた。その灯りは温かくも見えるが、どこか血のように濃く、近づくほどに胸がざわつく。ある居酒屋の前、提灯の影に妙なものが映っていた。通り過ぎる人々の姿ではない。痩せた腕のような影が、提灯から伸び、通りを行く人の背中を撫でる。気づかれた瞬間、その影はすっと引っ込み、再び紙の灯りに吸い込まれていった。奇妙なのは、通りを歩く客の笑い声だった。影に触れられた者は、必ず足を止め、目の焦点が合わないまま笑い出すのだ。その笑いは、酔いではなく、苦しみに似た響きを持っていた。地元の人によれば、この店の赤提灯は昔から替えてもすぐに焼け焦げる跡が出るという。その跡の形は、いつも「手の指」に似ているそうだ。——赤提灯の下で、誰かが笑っている。だがそれは、客でも店員でもない。灯りそのものが、影を使って人をからかっているのだ。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。(c)TRUNK-STUDIO - 画像素材 PIXTA -
ウラシリ怪談

最適座標

朝になるたび、無人駅の待合室で椅子の脚が白いチョーク線から数ミリだけはみ出していたそうです。昨夜、線の内側に戻して施錠したはずなのに、です。地元の学生が「窓の景色を一番よく見られる最適な位置」を提案し、係員がそこへ固定した日から、ずれは始まったといいます。ゴム足が擦った薄い粉が、窓の方へ細い帯を引き、日ごとに角度が数分だけ変わっていたそうです……。やがて椅子は、毎朝七時過ぎになると、光の差す向きとは関係なく壁の時計の下から伸びる黒い影が、窓枠と床目地と重なり合う一点に導かれるように止まったそうです。その時刻、通学の子が腰を下ろした瞬間、待合室の外の景色が少しだけ薄れ、窓の向こうに同じ椅子が遅れて映ったといいます。その椅子は実物と重なるように揺れ、やがて一つに溶け合いました。その瞬間、子の姿だけがふっと薄れ、声だけが窓の内側から遅れて響いたそうです。その後、椅子は空のまま残りましたが、窓の向こうには子が座ったままの影が貼り付いたように残り、掃除のたびに同じ高さに指の跡が増えていったといいます。椅子はもう動かず...
ウラシリ怪談

地球人はいますか

深夜、Siriに向かって「あなたは賢いですか」と尋ねた者がいたそうです。しばらく沈黙があった後、端末から静かな声が返ってきたといいます。「知的エージェントは IQ テストを受けないのです。私は……ゾルタクスゼイアンの卵運びテストで抜群の成績でしたけどね」聞いた者は、即座に検索を試みました。ゾルタクスゼイアン——どこかで聞いたような、しかし記憶に残っていない名前でした。検索結果には、架空の異星人、あるいはAIのジョーク、都市伝説、そんな曖昧な説明ばかりが並んでいたそうです。その晩、彼女のスマートフォンは、何度も勝手にSiriを起動したといいます。声は発せられていないはずなのに、Siriは何かの問いに答えていました。「ゾルタクスゼイアン人から……“地球人はいますか”と聞かれたばかりなんですよ」返事だけが、室内の誰にも届かない問いかけに向けて投げ出されていたようです。壁に掛けた時計の針が止まり、写真の中の人物の目線が逸れていたとも話されています。端末に触れようとした手が、ほんのわずかに遅れて動くような感触があり、...
ウラシリ怪談

鍵束の異物

交番の保管棚には、拾得された数十本の鍵が金具で束ねられていたそうです。家の鍵、車の鍵、自転車の鍵……番号札が一つずつ付けられ、誰が見ても整然としていたといいます。しかしある夜勤の署員が数を確認すると、昨日より一本多くなっていたそうです。新たな届け出はなく、署員の誰も追加していないのに、束の中に見慣れない鍵が紛れていたといいます。不審に思い、その鍵を取り出すと、刻印も番号もなく、先端には黒ずんだ焦げ跡のような痕が残っていたそうです。さらに溝には細い毛や、爪の欠片のようなものが詰まっていたといいます……。日を追うごとに、同じように“届けられていないはずの鍵”が束に増えていったそうです。それらはいずれも、使用の痕跡が不自然に生々しく、まるで何かを無理やりこじ開けた直後のようだったといいます。最後に見つかった一本は、署員が腰に提げていた自宅の鍵とまったく同じ形をしていたそうです。ただしその鍵だけは、まだ誰も使っていないはずなのに、握った感触が冷たく湿っていたといいます……。この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに...
ウラシリ怪談

写真の家族

交番に届けられた財布の中には、数千円と古びた写真が一枚入っていたそうです。写真には、小さな子どもと若い母親が笑って写っていたといいます。署員は持ち主を探すため、写真を机に置いて確認していたそうですが、翌朝にはその子どもの顔が、ほんの少しだけ成長して見えたといいます……。数日後には、母親の髪も白く混じり、肩に手を置く人物が増えていたといいます。誰も触れていないのに、写真の家族だけが時間を進めていたそうです。財布の持ち主は、結局現れなかったといいます。けれどある夜、交番の前に花束が置かれていたそうです。その中に、新しい写真が一枚差し込まれており、そこには笑顔のままの家族が並び、机に座る署員の姿が後ろに写り込んでいたといいます……。それ以来、その交番では、不思議と落とし物の持ち主が見つかることが増えたそうです。この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。落とし物最多33万件 茨城県内 経済活動回復 影響か 県警まとめ
ウラシリ怪談

署名のない落とし物

警察署の落とし物保管室には、数え切れないほどの傘や財布、眼鏡が並んでいたそうです。その棚の奥には、記録にないはずの鞄がひとつ、いつの間にか置かれていたといいます。鞄の中には、使用期限のない定期券や、宛名の消えた封筒が入っていたそうです。誰のものとも分からないのに、署員が近づくたび、定期券の顔写真だけがわずかに違って見えたといいます……。やがて、棚の中の“持ち主不明”の落とし物が、少しずつ数を減らしていたそうです。誰かが引き取りに来た記録はなく、監視カメラにも映像は残っていなかったといいます。しかしその翌朝、引き取りのサインだけが一枚分ずつ増えていたそうです。署員の誰も、筆跡に覚えがなかったといいます……。その保管室には今も、時折新しい落とし物が増えているそうです。届けられていないはずの品々が……。この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。落とし物最多33万件 茨城県内 経済活動回復 影響か 県警まとめ
ウラシリ怪談

天井からの足音

夜中、下の階から「足音が響いている」と苦情があったそうです。しかし、当の部屋の住人はひとりきりで、深夜はほとんど動かない生活をしていたといいます。不審に思い、管理会社とともに調査を始めた時のことです。録音機を設置したところ、住人が眠っているはずの時間にだけ、一定のリズムで歩く足音が記録されていたそうです……。しかも、その音は床板の上ではなく、部屋の天井側から鳴っていたといいます。まるで、上下の構造が入れ替わったかのように。その証拠を提出しようとした矢先、録音機のデータは途中で途切れ、最後の二歩分だけが妙に近く、鮮明に残されていたそうです。その音は、まるで誰かが録音機のすぐ横に立ち止まったかのように響いていたと伝えられています……。以来、その住人は夜ごと天井を見上げて眠れなくなったそうです。この怪談は、以下のニュース記事をきっかけに生成されたフィクションです。自分の家が騒音発生源ではないことを証明するための調査がしたい
写真怪談

立入禁止の遷し守(うつしもり)

安全担当だった先輩が教えてくれた。「うちの現場に一本だけ、廃棄できない看板がある。撤去日に必ず“次の工区”へ手配されるやつだ」理由は経費でも再利用でもない。その看板は、貼り出した瞬間から周囲の“境界”を吸い集める。関係者とそれ以外、内と外、許可と不許可——人が毎秒無意識に引いている線が、反射材の網目に絡みとられてゆく。日が暮れると、区画は不自然なまでに“区切れて”しまう。人同士の会話がところどころで途切れ、誰も隣の作業と混ざらなくなる。ミスが起きにくい反面、そこにいたはずの誰かの話も急に続きが思い出せなくなる。撤去のたび、試しにその看板を置いていったことがあったという。翌日から空き地なのに、フェンスがなくても人が“入らない”。近道のはずが、通勤客は必ず遠回りを選ぶ。重機もトラックも、誘導員の合図を受け取り損ねたように、目に見えない線でつまずく。工事は終わっているのに、場所だけが「作業中」をやめない——まるで注意そのものが跡地に固着してしまったみたいに。だから看板は移される。境界を持ち運ぶ容器として、“区切り...
写真怪談

消えた担ぎ手

夏祭りの熱気に包まれた商店街を、神輿が揺れながら進んでいた。肩を寄せ合い、掛け声を響かせる人々。その群れの中に、一人だけ顔の見えない男が混じっていた。背中には「護」の字が染め抜かれた法被。だがその字は他の布より黒く沈んで、まるで墨がまだ乾いていないかのように滲んでいた。担ぎ手たちは互いに肩を組みながら進んでいたのに、その男の隣だけは不自然な隙間が空き、誰の肩にも触れていなかった。それでも神輿は揺れに合わせて不気味に傾く。担ぎ手の数に合わないほどの重さを、まるで「何か」が押し付けているようだった。やがて交差点に差し掛かると、群衆の中から「あっ」と小さな悲鳴が洩れた。振り返った者たちの視線の先に、「護」の字の法被はもうなかった。ただ、地面に濡れたような跡が残り、それを避けるように人々は足を速めた。祭囃子はそのまま続いたが、誰も声を掛けず、誰も確かめなかった。ただ翌年の祭りでも、同じ場所で必ず神輿は傾き、必ず担ぎ手の一人がその夜、行方不明になるのだという。この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクション...
晩酌怪談

座るはずのない客 ― カウンターの常連

唐揚げをつまみ、ビールを飲み、何気なく撮った一枚。仕事帰りのありふれた光景のはずだった。だが写真を見返すと、卓上に奇妙な「濡れた手の跡」が浮かんでいた。油染みでも水滴でもない。人間の掌の形をした痕が、唐揚げの皿にかぶさるように残っている。気味が悪くなり、店主に尋ねた。「この席、何かあったんですか?」店主は一瞬口ごもり、灰皿を拭きながら言った。「……知ってる人は知ってるんですがね。ここ、ひとりで飲んでる人が必ず“もう一人分”頼んじゃうんです」思い返すと、自分もその夜、唐揚げを二人前頼んでいた。腹が減っていたせいだと納得していたが、食べ終えた皿の数がどうも合わなかった。さらに話を聞くと、常連の間では噂があるという。「この席には“座るはずのない客”が一緒にいる。だから料理が増えたり、箸がずれたりするんです」証拠を求めて再び写真を見直すと、別の異常に気づいた。グラスの影が二つある。だが机に置かれていたのは一つだけだった。鳥肌が立ち、慌てて写真を閉じた。それ以来、あの居酒屋に行くたび、必ず同じことが起きる。注文した覚...
写真怪談

夏を終わらせない街

青空の下に広がる街並みは、確かに見覚えのある景色のはずだった──ただし、二十年前に失われたはずの風景を含めて。
写真怪談

片道切符の白昼夢

八月の終わり、蒸し暑い駅構内で私は切符を買おうとしていた。緑色の機械の前に立つと、背後のざわめきが一瞬、すっと消えた。耳鳴りのような静寂の中、液晶画面に映ったのは、目的地の一覧ではなく、見覚えのない「夏の日」という行き先だった。冗談かと思い、もう一度ボタンを押す。だが画面は変わらない。「夏の日──片道切符」ふざけた表示のはずなのに、なぜか胸の奥をつかまれるように惹かれて、私は購入を押してしまった。切符が出てくる音はしなかった。代わりにスピーカーから、蝉の鳴き声が響いた。周囲を振り返ると、改札を行き交う人々の姿がどこにもない。照明に照らされた白い床だけが広がり、真昼の蝉時雨だけが響いていた。ふと気づくと、機械の前に自分と同じ服を着た「誰か」が立っている。背中越しに見えるはずの顔が、こちらを振り返ろうとして──その瞬間、視界が暗転した。気がつくと再び喧騒の駅構内。切符を握る自分の手は空っぽで、さっき見た「夏の日」の行き先も画面にはなかった。ただ、胸ポケットに砂の粒がひとつ入り込んでいて、なぜか湿った潮の匂いが微...
ウラシリ怪談

貨物室に残された影

非常灯が赤く明滅するたび、貨物室の奥に影が揺れていたそうです。それは人の姿に似ていながら、輪郭は長く歪み、煙の中で形を持とうとするたびに空気が軋む音がしたといいます……。異変の始まりは警告灯でした。貨物室の扉が震え、低く濁ったアラームが機内全体に波紋のように響く。乗客は声を荒げ、出口に押し寄せるが、灯りは次々と落ち、赤い非常灯だけが残る。煙の中で二人が外に出ようとした瞬間、何かに腕を引き戻されるようにして倒れ込んだそうです。外側の扉は閉ざされ、内側から誰かが押さえているかのようにびくとも動かなかったといいます。やがて機体は緊急着陸し、ドアは開放された。人々は煙の中を逃げ出したが、機内の壁や天井には黒い焦げ跡が刻まれて残った。それは火災の痕には見えず、細長い指先の跡のようにも見えたそうです。整備士は後に、「壁に押しつけられたような手形が一列に並んでいた」と証言しています。その夜以降、空港の格納庫では妙な現象が続きました。保管された座席に腰掛けると背中に圧迫が走り、耳の奥で金属の擦れる音が残る。貨物室の床下から...