記録と痕跡

記録に残された痕跡は、時に説明できない異変を映し出します。

誰が残したのかも分からぬまま、その痕跡だけが確かに存在しているのです……。

晩酌怪談

塩の数字

“いつもの店”の“いつもの卓上”に、戻ってはいけない年が混ざっていた——。
ウラシリ怪談

地面の人数

見ないで測れるはずの地面が…夜になると“見えない人数”を数え始めたそうです…
写真怪談

手を下ろさぬ

正月二日のアーケードで、笑うたぬきと写真を撮った——それだけのはずだったのに。
ウラシリ怪談

錨の先の通話

海の底で切れたのは回線だけではなかったようです...
ウラシリ怪談

無音の百八

百八つのはずの鐘を記録した音が、役所の保管で増え続けるそうです…
ウラシリ怪談

年越しそばの録音

管理室で年越しそばを食べていたはずなのに、録音だけが“二人分”すすり続ける夜があるそうです…
写真怪談

宛名のないプレゼント

クリスマスが終わる頃、駅前のプレゼント箱に“宛名”が浮かぶ夜がある。読んだ人は少し楽になって、代わりに何かを忘れていく。
ウラシリ怪談

検出された五秒から二十秒

見えない透かしを探すはずの検証がいつからか本物の会話の欠落を示すようになったのかもしれません…
ウラシリ怪談

面積のしきい値

市区町村を映すはずの盤面に、読めない“しきい値”が混じりはじめたようです…
ウラシリ怪談

空気の脂

空気から生まれたはずの脂が、台所の火で“言葉”を滲ませはじめたそうです…
ウラシリ怪談

押印欄がひとつ多い

決裁が速くなったぶんだけ、押されるはずのない欄が一つ、毎晩増えていたそうです…
写真怪談

交番のガラスに、次の顔

留守が多いはずの住宅街の交番に、珍しく警官がいた――ただ、瞬きもしないまま正面を見続けていて。
ウラシリ怪談

午前十時の受注番号

止まっていたはずの注文が、午前十時ちょうどにだけ息を吹き返したそうです…
ウラシリ怪談

離陸前の告知

空の記念日に合わせて作られた言葉が、地上で先に搭乗手続きを始めていたようです…
ウラシリ怪談

四時四分の深さ

午前四時四分の小さな揺れが…揺れなかったはずの通路だけを伸ばしていったようです…
写真怪談

通過人数マイナス1

自動改札のログに表示された「通過人数:−1」。誤作動のはずだったその数字は、十年前からずっと、同じ時間・同じ改札で刻まれ続けていた──。
ウラシリ怪談

夏と冬のあいだに取り残された檻

記録的な暑さの夏と急に深まった冬のあいだに、ひとつの動物園だけ季節がずれたまま残されていたそうです…
写真怪談

二つ口のサンタポスト

年末の駅前に立つ、サンタの飾りが載った赤いポスト。 「左は来年へ、右は届かなかったものが戻る口です」――冗談半分の説明のはずが、亡くなったはずの友人から届いた一枚の年賀状が、その区別の意味をゆっくりと教えてくる。