存在のゆらぎ

人や物の存在そのものが曖昧に揺らぐ時、日常は知らぬ間に別の層へと滑っていきます。

ここでは、確かにあったはずのものが、確かめられぬものへ変わる怪談を収録しています。

写真怪談

消火ホース逆流

小火で塞がれた住宅街の渋滞の中、園児バスの窓だけが“濡れて”いた――三階から見下ろした主人公が拾ってしまう、消火ホースの逆流。
写真怪談

籠に残る指跡

夜の路地、窓明かりの下の自転車籠に、三本指の“握り跡”が残り続ける――そして、ある朝から形が変わった。
ウラシリ怪談

百十八段のひとり分

雨で中止になったはずの石段に、“座った跡”だけが百十八段ぶん残ったそうです。
写真怪談

緑灯の訪問者

深夜零時、共用廊下の緑灯が一瞬だけ薄くなる――その翌朝、老夫婦の玄関には見知らぬ「来訪札」が貼られていた。
ウラシリ怪談

十センチの影

「窓は十センチ、レースで四分の一」——その“正しい換気”を守った日から、カーテンの向こうに欠けた人影が立つようになったそうです。
写真怪談

無音の止まり木

解体現場の横で群れるスズメは、鳴き声ではなく“無音”を守っているように見えた。
ウラシリ怪談

封水の歯

排水口を“きれいにする手順”をなぞった夜から、穴の奥が先に磨きはじめたそうです。
ウラシリ怪談

無料観覧の発掘面

展示ケースの下の床面にだけ“発掘区画”が浮き、角には「観覧無料」の札が置かれていたそうです。
写真怪談

欠損稜線

冬の夕焼けに浮かぶ富士山——その稜線が、写真の中でだけ静かに“欠け”はじめる。
ウラシリ怪談

喉を借りるペルソナ

「助手役を演じてください」――その一言が、“座るはずのない誰か”の席を用意してしまったそうです。
ウラシリ怪談

逆転しきれない影

1億5500万年の“逆転”を追う測定室で、反転しきれない横顔が窓の曇りに残ったそうです。
ウラシリ怪談

救助用ロープがほどけるまで

無人のはずの帰還カプセルが、初めての海上回収で“誰かの痕”だけを持ち帰ったそうです。
ウラシリ怪談

百目盛りの端面

57.6Tbpsが通った夜、端面に“百の睫毛”みたいな輪が残ったそうです。
写真怪談

赤い三角の病棟

病院の裏路地で見上げた窓に、赤い三角がひとつ増えた瞬間から、影の形が崩れはじめた。
写真怪談

欠席格子

日曜の朝、誰もいない校門で、ネットの一マスだけが“塞がって”いました。
写真怪談

暗層勤務表

明るい展望フロアの直下で、暗い窓だけが“勤務”を続けている理由を、あなたは見てしまいます。
写真怪談

境界の窓

「乗務員室」の窓に浮かぶ白い文字が、いつから“こちら側”を見返すようになったのか。
写真怪談

足を数える波紋

水路にいた二羽の鴨。そのうち一羽が潜った瞬間、水面の輪は“足の数”を数え始めた――。