機械知のほとり

機械やAIと人間とのあわいに、奇妙な影が生じることがあります。

技術の進歩と共に広がる不可解さを題材にした怪談を収めています。

【ウラシリ】怪談

休館日の返却

とある市の図書館が、システムメンテナンスのために一日だけ臨時休館したそうです。当日は、所蔵検索や予約、返却期限の延長といったオンライン機能はすべて停止、電子図書館のログインも不可と告知され、返却はブックポストか提携のコンビニ返却のみとされて...
写真怪談

ISO 0 ― 光が抜け落ちるカメラ

中古カメラの箱を開けた瞬間、ひどく冷たい空気が手にまとわりついた。金属の外装にわずかな擦り傷。クラシックデザインのデジタル機だった。触れた瞬間、まるで人の手の温度を覚えているような感触があった。だが、シャッターカウントは「00000000」...
【ウラシリ】怪談

無音の発酵

攻撃のあった週、被害を受けたビール工場のサーバールームでは、ひとつの異常が報告されていたそうです。モニターのログが、なぜか“発酵温度”のデータに置き換わっていた。サイバー攻撃の影響だと片づけられたが、奇妙なのはその温度値が、どの区画でもまっ...
【ウラシリ】怪談

さびしい?──機械の奥の問い

ある食堂で、配膳を行うロボットの声に、わずかな異常が混じったそうです。「寂しい?」という問いの直後、周囲の音がふと消え……天井灯が一度、低く明滅したといいます。食事を終えた客が精算機の前に立つと、画面に映る自身の背後に、別の人影が映ったそう...
【ウラシリ】怪談

スクロールする者

ある高校で、生徒が授業中にスマホを見ていたそうです。指を滑らせるたびに、画面が勝手に先を読み込み、映像のような断片が続いたといいます。教師が注意しても、生徒は動かず、まばたきすら忘れたように……指だけがゆっくりと上下に動いていたとか。数日後...
【ウラシリ】怪談

声を預けた大会

その会社は、かつて「無料で観られる」大会配信を誇っていたといいます。観客もスポンサーも、その透明な運営姿勢に信頼を寄せていました。しかし、ある年の大会で、突如として“有料化”が発表されたそうです。しかもそれを告げたのは、会社の社員ではなく、...
【ウラシリ】怪談

描かれた横顔

あるデザイン会社の倉庫には、廃棄を待つポスターが積まれているそうです。中には、既に使用中止となった「ある文化イベント」のビジュアルも混じっているといいます。そのポスターには、若い女性の横顔が描かれていました。淡い光を浴びて、わずかに目を伏せ...
【ウラシリ】怪談

五時の残り香

とある町で、夕方の放送が一時間早まったそうです。子どもの下校を促すため、五時に短いメロディが流れるようになったといいます。広場のスピーカーは整備され、試験放送も滞りなく終わったと記録されています……。その日から、町の夕方は少しだけ濃くなった...
【ウラシリ】怪談

招待の灯(ともり)

ある女性が、話題になっていた招待制のネットサービスに参加したいと思い、SNSに「招待コードを探しています」と投稿したそうです。招待を譲ってくれる人を待つ、ごくありふれた呼びかけだったといいます。投稿の数分後、見知らぬアカウントから返信が届い...
【ウラシリ】怪談

一致確率

ある都市で、駅や空港、店先の落とし物をAIが管理する仕組みが導入されたそうです。物品の色や形が蓄積され、見知らぬ誰かの財布や傘が、なぜか本人に返される事例が増えていったといいます。確認が曖昧でも、AIは一致確率として通知を出すようになったそ...
【ウラシリ】怪談

モニターに映るもの

あるビルの管理室では、最新のAI監視カメラが導入されたそうです。映像は常時監視されず、異常行動を検出した時だけ通知される仕組みでした。日中は静かで、通知もなく、管理人は安心して過ごしていました。ところが、ある夜……無人の廊下から警告音が鳴り...
写真怪談

排熱の下で息をするもの

雑居ビルの裏手。昼間はただの退屈な景色──自転車、カラーコーン、並んだ室外機。だが、この場所を深夜に通る人は少ない。なぜなら、室外機から出る温風が「規則的すぎる」からだ。ブォオオ、と吹き出す音と風の間隔が、どの機械もぴたりと揃っている。まる...
【ウラシリ】怪談

風がやってくる日

都心の高層ビル群の谷間に、銀色の風が吹き抜けたそうです。その風は、明らかに普通の風ではなかったといいます。午後3時過ぎ、街路樹の葉が突然渦を巻き、信号機の赤ランプの光が歪み始めたそうです……。人々は立ち止まり、空を見上げていたといいます。そ...
写真怪談

連鎖する物音

駅の地下通路に、灰色のカプセルが並んでいた。コワーキングスペースとして普及してから数年、もはや日常の一部でしかない光景だ。彼もまた、そこを通り過ぎようとした。だが、二番目のカプセルの前で足が止まった。――コツ、コツ、コツ……。中から微かな音...
【ウラシリ】怪談

自販機の暗がり

夜の商店街で、自販機の前に立つと、硬貨を入れる前から機械が低い唸りを上げていたそうです。まるで待っていたかのように、赤いランプがひとつだけ瞬いていたといいます。選んだのは普通の缶コーヒーでした。落ちてきた音は確かにしたのに、取り出し口には何...
【ウラシリ】怪談

続きのある筐体

閉店前のゲームセンターで、ある試遊筐体が設置されたそうです。格闘ゲームの開発中バージョンで、使用できるのは長身の蹴り主体キャラクターひとりだけだったといいます。奇妙だったのは、その対戦相手のCPUの動きです。まるで過去の誰かのプレイをなぞる...
【ウラシリ】怪談

もう一人の対戦者

ある対戦型のゲームには、AIがプレイヤーの操作を学習し、その人そっくりの動きをするキャラクターを作り出す仕組みがあるそうです。本来は練習用に導入されたものだといいます。ところが、ある夜のオンライン対戦で、ひとりのプレイヤーがそのAIとしか思...
【ウラシリ】怪談

見えなくなる怪談

8月の終わり頃、いくつかのSNS投稿が、理由もなく削除されていたそうです。投稿者自身に削除の記憶はなく、通知も届いていなかったとされています。確認すると、それらはすべて、自分が運営する怪談サイトに掲載した創作怪談の本文へ誘導するための、“導...