夏の記憶

写真怪談

夏を終わらせない街

高層マンションのベランダから街を見下ろしていた。真夏の青空、建物の屋根に照りつける陽光。眩しいはずの光景なのに、なぜか視線が離せなかった。そこに広がっている街並みは、確かに自分が暮らしてきた場所だった。だが、あるはずのスーパーの看板がない。友人の住むアパートが一階分多くなっている。幼いころ遊んだ駄菓子屋が角に見えるのに、そんな店はもう二十年前に無くなっていたはずだった。汗ばむ手でベランダの手すりを...
写真怪談

片道切符の白昼夢

八月の終わり、蒸し暑い駅構内で私は切符を買おうとしていた。緑色の機械の前に立つと、背後のざわめきが一瞬、すっと消えた。耳鳴りのような静寂の中、液晶画面に映ったのは、目的地の一覧ではなく、見覚えのない「夏の日」という行き先だった。冗談かと思い、もう一度ボタンを押す。だが画面は変わらない。「夏の日──片道切符」ふざけた表示のはずなのに、なぜか胸の奥をつかまれるように惹かれて、私は購入を押してしまった。...
写真怪談

風鈴の底に閉じ込められた夏

澄んだ音に耳を澄ませた瞬間、季節そのものが閉じ込められていることに気づいてしまう。
写真怪談

白昼、風が連れてきた声

真夏の午後、照りつける日差しを避けるように、私は堤防沿いの道を歩いていた。視界の向こうまで続く青空に、白い雲がゆっくりと形を変えながら流れていく。道の脇にはベンチが並び、誰もいないその座席は、まるで見えない誰かが座るのを待っているようだった。ふと、二つ目のベンチのあたりで風が変わった。熱気を含んだ空気の中に、妙に冷たい流れが混じり、それが私の耳元で囁くように通り過ぎた。声のようにも聞こえたが、言葉...
ウラシリ怪談

ミントの底に眠るもの

「このかき氷、美味しいですよ」そう勧めてきたのは、何度かしか顔を見たことのない、深夜勤務の店員でした。新発売のチョコミント味は、たしかに爽やかで、他では味わえない静かな甘さがありました。ただ、気づくと手の中のカップが空になっていて、スプーンが真っ黒に変色していたそうです。別の客は、溶け残った氷の底から、見覚えのない青黒い髪が一本浮き上がったと言います。そして奇妙なことに、その後ふと気づくと、食べた...