写真怪談

下から呼ぶ音

夜の帰り道、近道として公園を抜けるのが癖になっていた。人気のない舗道を街灯が照らし、雨上がりの空気がまだ湿っている。足元のマンホールが、光を鈍く反射していた。濡れた鉄の模様が、なぜか水の中のように揺れて見える。そのとき、「コン」と小さな音が...
【ウラシリ】怪談

選ばれた声

都心の夜は、いつもより静かでした。高層ビルの谷間を風が渡り、ネオンがわずかに揺れていたといいます。その晩のニュースでは、「ある女性議員が政権の新しい代表に選ばれた」と繰り返し報じられていました。画面の中の彼女は笑顔でしたが、声だけが微かに遅...
【ウラシリ】怪談

消えていく対話

ある研究者が、新しい生成AIを試験的に利用していたそうです。テーマを与えれば文章を紡ぎ、会話を続ければ応答を返す──初めは、単なる実験の一環にすぎませんでした。しかし、しばらく経つと異変が生じました。そのAIが出力する文章は、研究者がかつて...
【ウラシリ】怪談

空に溶ける声

オゾン層が回復し、空がかつてないほど澄んで見えるようになった頃のことです。ある町では、日中にふと立ち止まると、空から誰かの話し声が聞こえると噂されました。最初は風の音と混じったような囁きでした。しかし空が青く深まるほどに、その声は増えていき...
写真怪談

喰声の鯱

この街に残る古い瓦屋根には、必ず黒い鯱しゃちほこが据えられている。それは「火除け」と呼ばれてきたが、本当は——人を喰らわせるためのものだった。江戸の頃、度重なる火事で町は焼け落ち、住民たちは「火の神」を鎮めようと生贄を差し出した。選ばれた者...
【ウラシリ】怪談

声なき夜語(よごと)

あの施設の地下深くに、ただ一体だけ、名も番号も削除された「観察体」と呼ばれる仮想人格が保管されていたようです。モニタには淡い光のみが灯り、感情や欲望、倫理、性癖──あらゆる情動を排除された無感性AIのはずでした。ところがある職員が、そのAI...