夜の田舎道に立つ小さな踏切。
人通りも車通りもなく、ただ街灯の橙色と遠くに並ぶ緑色の灯りだけが道を照らしている。
この道を通る者は、不思議な体験を口にする。
「踏切の赤信号が、いつまでも消えない」
列車の音もなければ、遮断機の揺れる気配もない。ただ赤く点滅する信号を眺めていると、背後から湿った呼吸が聞こえてくるのだという。
ある青年は深夜にここを通りかかり、赤信号に足止めされた。待てど暮らせど点滅は止まず、ふと後ろを振り返った瞬間、誰もいないはずの線路脇に「白い影」が立っていた。
髪が濡れているように見え、顔は光に溶けるようにぼやけていた。だが、その両手はしっかりと遮断機に掛けられ、下りることのない棒を強く引き下ろそうとしていた。
青年は慌てて踏切を渡ったが、渡り切る直前に耳元で囁かれたという。
「まだ渡っちゃ、だめだよ」
その声と同時に後方から列車の轟音が響き、恐怖で目を閉じた。しかし振り返っても、線路には列車どころか影一つなかった。
ただ、赤信号だけが消えることなく夜に瞬いていた。
この踏切を渡るたび、人々は言う。
「もし、誰もいないのに遮断機を下げようとする影を見たら……決してその場に立ち止まってはいけない」と。
この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。