その象の絵は、ある日突然この壁に現れた。
店の店主も、近所の誰も、描いたところを見ていない。
だが、近くを通ると妙なことが起きる。
耳元で、自分の名前を呼ばれるのだ。
振り返っても誰もいない。
しかし、黄色い象の耳の中に視線を向けると、
ひび割れたペンキの奥に、細い穴があるのがわかる。
一度、その穴に耳を近づけてみた。
中から、知らない国の言葉のような囁きが、延々と続いている。
それは決して意味を持たない音列のはずなのに、
聞いているうちに脳が勝手に意味を組み立て始め、最後にこう聞こえた。
――「見せてやる」
瞬間、世界が暗転し、次に目を開けた時、
私は壁の中にいた。
前を歩くのは、何十頭もの象の群れ。
全ての象の耳の穴から、人間の顔が半分ずつ突き出して、
無表情のまま口をぱくぱくと動かしていた。
その群れの最後尾に、青いバンダナを巻いた象がいて、
その耳から突き出しているのは、私自身の顔だった。
この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。