ガラスの外にいる

写真怪談

駅ビル地下の階段で、事故があったという話を聞いた。
だが警備記録にも報道にも何も残っていない。ただ、監視カメラの記録だけが毎月更新されていない。
なぜなら、その地点だけ、映像に異常が出るのだという。

ガラス壁の向こうにいるはずの人物が、時折“中からこちらを見ている”。
階段の下で人が動くと、ガラスの中の人影が数秒遅れて、まるで鏡像のように追いかけてくる。
しかしその動きは一致しない。誰も登っていないのに、影だけが駆け上がってくることもある。

あるカメラマンがその場所で撮った一枚に、妙なものが写った。
階段を上がる姿がガラスに写っている。しかし、その位置に人影はいなかったという。
構造的にも、反射角的にも、その像は存在し得なかった。

その写真を持ち帰った編集者が、後日こう言った。
「これさ、右足がね、接地してないんだよ。地面の上に“貼り付いてる”みたいに見える」
その三日後、その編集者は意識不明で発見された。地下鉄構内のガラスに激突していたらしい。
頭蓋骨が“内側から”割れていたと報告されたが、それ以上のことは何も分かっていない。

いまもその場所を訪れると、ごくまれに──
ガラスの向こうで、自分と同じ歩幅で階段を登る“何か”と目が合うことがあるという。
だが、ガラスのこちら側には、誰も立っていない。

この怪談は、実際の写真から着想を得て構成されたフィクションです。

 

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