2025-08

【ウラシリ】怪談

洞窟に置き去りの袋

洞窟の入口付近に、色あせたスナック菓子の袋が落ちていたそうです。風も届かぬはずの奥へと、それは半ば埋もれるように置かれていました。誰が持ち込んだのか、いつからあるのかも分かりません。袋の表面には、湿り気を帯びた粉がびっしりと付着していたとい...
【ウラシリ】怪談

さびしい?──機械の奥の問い

ある食堂で、配膳を行うロボットの声に、わずかな異常が混じったそうです。「寂しい?」という問いの直後、周囲の音がふと消え……天井灯が一度、低く明滅したといいます。食事を終えた客が精算機の前に立つと、画面に映る自身の背後に、別の人影が映ったそう...
【ウラシリ】怪談

スクロールする者

ある高校で、生徒が授業中にスマホを見ていたそうです。指を滑らせるたびに、画面が勝手に先を読み込み、映像のような断片が続いたといいます。教師が注意しても、生徒は動かず、まばたきすら忘れたように……指だけがゆっくりと上下に動いていたとか。数日後...
写真怪談

午前3時11分発、ゆき先不明

深夜の大都市のバスターミナル、最終便のバスが発車した後の停留所は、ガラス越しの光とエンジンの残響だけが漂っていた。一台のバスが静かに入ってきた。時刻表示は午前3時11分。こんな時間の便など存在しないはずだ。乗降口が開き、中から降りてきたのは...
写真怪談

電線にぶら下がるもの

夕暮れの雲が低く垂れこめ、電線の黒い線が空を裂いていた。その下を歩いていた二人の通行人は、ふと立ち止まった。風もないのに、頭上の一本の電線だけが震えていたからだ。その揺れは徐々に大きくなり、やがて異様な音が混じった。——声だ。それも、電線の...
写真怪談

呼吸する壁

その空き部屋は、ビルの管理会社のあいだでも厄介者扱いされていた。テナントが退去して以来、なぜか工事が中断されたままになり、仮設の黄色い壁だけが立てられている。電気は通っているが使う予定はなく、ただ放置され、時おり巡回の警備員が足を踏み入れる...
【ウラシリ】怪談

戻り刃(もどりば)の影

空港の売店から忽然と消えたハサミが、見つかったのは同じ売店の棚だったそうです。誰も動かしたはずはないのに、ほんの数時間、確かに存在が消えていたといいます。その間、空港全体がどこか重く沈み、空気の流れまで止まってしまったように感じられたそうで...
写真怪談

パイロンの列に

朝の通勤路に、いつからかカラフルなパイロンが並んでいた。工事の予定などなかったし、誰も設置しているところを見ていない。最初はオレンジばかりだったが、ある日から並びが変わった。黄色、緑、青、赤…きれいな配色だと思った瞬間、違和感に気づいた。配...
【ウラシリ】怪談

見返す群れ

ある水槽の前に立った客は、皆、奇妙な共通点を持っていたそうです。ガラス越しの水中で、群れを成す魚たちがぴたりと動きを止め、その人物をじっと見返すのです。魚は人の顔を覚えるといいます。しかし、その日は、初めて来た客にも同じ反応を見せたそうです...
写真怪談

浴衣の五人

駅前の夏祭りの帰り道。人ごみから少し外れた歩道で、五人の女性が並んで立っていた。全員が浴衣姿で、後ろを向いている。髪をまとめ、帯を締め、誰一人としてこちらを振り返らない。最初は気にせず通り過ぎようとした。でも、近づくにつれ、何かがおかしいと...
写真怪談

ガラスの外にいる

駅ビル地下の階段で、事故があったという話を聞いた。だが警備記録にも報道にも何も残っていない。ただ、監視カメラの記録だけが毎月更新されていない。なぜなら、その地点だけ、映像に異常が出るのだという。ガラス壁の向こうにいるはずの人物が、時折“中か...
写真怪談

狐面の奥のまばたき

夏祭りの人混みの中、鮮やかな朱の狐面を被った女がいた。目元の金縁から覗く瞳は、笑っているようにも、怒っているようにも見える。私はふと足を止め、その視線を受け止めた。次の瞬間、群衆のざわめきが遠のいた。周囲の色が褪せ、金魚すくいも綿あめの匂い...
【ウラシリ】怪談

続きのある筐体

閉店前のゲームセンターで、ある試遊筐体が設置されたそうです。格闘ゲームの開発中バージョンで、使用できるのは長身の蹴り主体キャラクターひとりだけだったといいます。奇妙だったのは、その対戦相手のCPUの動きです。まるで過去の誰かのプレイをなぞる...
写真怪談

白昼、風が連れてきた声

真夏の午後、照りつける日差しを避けるように、私は堤防沿いの道を歩いていた。視界の向こうまで続く青空に、白い雲がゆっくりと形を変えながら流れていく。道の脇にはベンチが並び、誰もいないその座席は、まるで見えない誰かが座るのを待っているようだった...
写真怪談

緑の機影、戻らぬ道

そのバイク駐輪場は、昼間でもどこか薄暗く感じられた。緑色のカウルが目に刺さるようなスポーツバイクは、他のどの車体よりも新しく、艶やかだった。だが近づくと、風防ガラスに微かな曇りがあり、そこに映り込むはずの周囲の景色が、ほんの少しずれていた。...
写真怪談

見返す目、街角の鳩

昼下がりの交差点。信号待ちをしていると、欄干に一羽の鳩が降り立った。灰色の羽根に紫と緑の艶を帯びたその鳥は、やけに人間を見透かすような眼差しで、じっとこちらを見ていた。鳩は、片足をかしげながら首を小さく振る。まるで「見ろ」と言わんばかりに。...
【ウラシリ】怪談

湖面から這い上がる映像

湖畔を散歩していた人のスマートフォンに、小さな波紋がいくつも浮かび上がる映像が記録されていたそうです。だが、その黒い瘤は、決して一つではなく、静かに連なりを変えながら――あたかも水面に潜む何かが形を借りて泳いでいるようだったといいます。普通...
写真怪談

路地裏の声

夜の仕込みを終えた帰り道、店の裏口から路地に出ると、青いゴミ桶が三つ並んでいた。昼間は何の変哲もないはずのそれが、今夜は妙に膨らんでいる。袋越しに透ける中身は、新聞紙や生ごみの他に、布切れのようなものが見えた。足を止めた瞬間、奥のゴミ桶が、...