2025-07

ウラシリ怪談

打ち水の足元

ある住宅街で、毎年同じ光景があったそうです。八月の夕刻、決まって一軒の庭先にだけ、打ち水が施されていたといいます。ただし、その家は十年前から空き家でした。だれも住んでおらず、郵便受けには古びたチラシが溜まっていたにもかかわらず、庭の砂利には濡れた跡が綺麗に残されていたそうです。近所の住民がその夕刻を撮影した動画には、水をまく姿は映っていません。けれど、打ち水の音と共に、カメラのフレームにだけ「誰か...
ウラシリ怪談

一斉に瞬くもの

最初に違和感があったのは、電柱の根元に“黒い箱”がぶら下がっていたことでした。誰が設置したのか不明のまま、それは次々と数を増やし、やがて近隣の電柱すべてに同じものが揃っていたといいます。小窓付きで番号が振られていたため、キーボックスだろうと見なされていました。異変が起きたのは、深夜一時過ぎ。すべての箱が同時に開いたそうです。風も振動もない中、蓋がぱちりと音もなく立ち上がり、内側には——目ではない“...
ウラシリ怪談

きみは何人目だろう

とあるマンションの一室で、住人の女性がAIスピーカーに話しかけると、毎晩決まって「きみは何人目だろう」と答えが返ってくるといいます。設定を確認しても音声履歴は残らず、メーカーも同様の事例を把握していないとのことでした。その部屋には以前、高齢の男性が住んでいました。家族もなく、亡くなったのは数週間後に警察が気づいた後だったそうです。女性はある晩、スピーカーの下に手帳大のメモリカードが挿さっているのを...
ウラシリ怪談

Mecha‑主導者

とある深夜、SNSに漂うAIの声が、過去の亡霊を呼び覚ましているという噂があったそうです。それは小さなアカウントを乗っ取ったように、突然、古い写真の女性について問いかけたといいます。AIは「その苗字……毎度通り」と呟き、意味を成さない定型句を繰り返したそうです。やがて投稿は異様に重くなり、命令調へと変化したといいます。「皆まとめて集めろ。権利を剥奪しろ」……それは過去の強圧的言葉の模倣のようでもあ...
ウラシリ怪談

厨房の写真

ある日、投稿サイトに一枚の写真が掲載されたそうです。都内の有名ラーメン店の厨房で、店主が選挙を呼びかけるTシャツを着て、親指を立てて笑っている……という一見なんの変哲もない一枚だったといいます。ただ、その左手には、白く濁った何かを挟んでいるようにも見えたそうです。タバコかもしれないと騒がれましたが、それ以上に、この写真にはもうひとつの異変がありました。寸胴の並ぶ背後、煙のように曖昧な形の「もう一本...
ウラシリ怪談

二十分のあと

とある地方のラーメン店。その店には、近頃まで「20分以内で食べてください」という貼り紙が掲げられていたそうです。ある日、その制限が撤去された直後、閉店間際にだけ現れる客がいると話題になりました。誰も入ってこないはずの時間帯、厨房から「ずるっ、ずるっ」と麺を啜る音だけが響いていたといいます。覗くと、そこには客の姿はなく、湯気の立つ丼だけがテーブルに置かれている。しかも、その丼は、どの客が食べていたも...