【ウラシリ】怪談

貨物室に残された影

非常灯が赤く明滅するたび、貨物室の奥に影が揺れていたそうです。それは人の姿に似ていながら、輪郭は長く歪み、煙の中で形を持とうとするたびに空気が軋む音がしたといいます……。異変の始まりは警告灯でした。貨物室の扉が震え、低く濁ったアラームが機内...
写真怪談

片道切符の白昼夢

八月の終わり、蒸し暑い駅構内で私は切符を買おうとしていた。緑色の機械の前に立つと、背後のざわめきが一瞬、すっと消えた。耳鳴りのような静寂の中、液晶画面に映ったのは、目的地の一覧ではなく、見覚えのない「夏の日」という行き先だった。冗談かと思い...
写真怪談

ガラスの外にいる

駅ビル地下の階段で、事故があったという話を聞いた。だが警備記録にも報道にも何も残っていない。ただ、監視カメラの記録だけが毎月更新されていない。なぜなら、その地点だけ、映像に異常が出るのだという。ガラス壁の向こうにいるはずの人物が、時折“中か...
【ウラシリ】怪談

白い閃光の後、ずれた時刻

とある火山の監視カメラが白い光に包まれた夜、住民の証言は奇妙に食い違っています。ある女性は、光の直後に壁時計が三分進んでいたと話します。だが隣家の老人は「同じ瞬間に時計が五分戻っていた」と証言しました。二人は同じ時刻に同じ空を見ていたはずな...
写真怪談

狐面の飲み方

翌年の夏祭り、私はまたあの通りに足を踏み入れた。雑踏の中に、赤い狐面を被った者がいた。髪は短く、面も顔の上半分を覆うだけの簡素なもの。去年の女とは明らかに別人だった。だが、私には分かってしまった。――あの目が、去年と同じまばたきをしていたか...
写真怪談

狐面の奥のまばたき

夏祭りの人混みの中、鮮やかな朱の狐面を被った女がいた。目元の金縁から覗く瞳は、笑っているようにも、怒っているようにも見える。私はふと足を止め、その視線を受け止めた。次の瞬間、群衆のざわめきが遠のいた。周囲の色が褪せ、金魚すくいも綿あめの匂い...
写真怪談

黒雲の下、橋の向こうで待つもの

夜祭の最終日。送り火を控えた河原はすでに立入禁止となり、橋の入り口には監視員たちが列を成して立っていた。「ここから先は入れません」通りかかる人々にそう告げる声が夜気に溶けていく。だが、河原には誰一人いないはずだった。ふと、一人の監視員が違和...
工房制作記録

アイキャッチ制作記録

サイトに常設する案内ページ「AI怪談工房のご案内」のために、アイキャッチ画像を制作しました。その過程では、AIによる画像生成の得意な部分と苦手な部分が、思いがけず浮かび上がることとなりました。ここでは、その試行錯誤の記録を残しておきます。目...
お知らせ

「AI怪談工房のご案内」を公開しました

このたび、新たにサイト案内ページ「AI怪談工房のご案内」を公開しました。このページでは、AI怪談工房の成り立ちや主要なカテゴリーの紹介、翻訳についての注意点などをまとめています。怪談本文を読む前に、工房の全体像を知る手がかりとしてもご覧いた...
お知らせ

新カテゴリ「お知らせ」を設けました

このたび、当サイトに「お知らせ」というカテゴリを新設いたしました。これからは、サイトの更新情報や企画の進行状況、そしてときおり……何かの“予兆”のような報せを、この場からお届けしてまいります。「怪談」は、語られることで、形になるそうですこの...
【ウラシリ】怪談

商店街の掲示板

古い商店街に、新しい掲示板が設置されたそうです。行事案内や落とし物、地域の告知などが貼られ、町の人々は気軽に利用していたといいます。最初は、子どもの演奏会の案内や回覧板の写しなど、見慣れた張り紙ばかりだったそうです。けれどある晩、通りかかっ...
【ウラシリ】怪談

灰色席の影

「純喫茶・灰色の窓」は、街角の古びた通りにぽつりと建っていたそうです。日中でも薄暗く、窓には薄いカーテンと埃じみたすりガラスがかかっていたといいます。その店では、常連客でもその日最初に入る者には「灰色席」だけが案内されるそうです。灰色席とは...
【ウラシリ】怪談

続きのある筐体

閉店前のゲームセンターで、ある試遊筐体が設置されたそうです。格闘ゲームの開発中バージョンで、使用できるのは長身の蹴り主体キャラクターひとりだけだったといいます。奇妙だったのは、その対戦相手のCPUの動きです。まるで過去の誰かのプレイをなぞる...
【ウラシリ】怪談

もう一人の対戦者

ある対戦型のゲームには、AIがプレイヤーの操作を学習し、その人そっくりの動きをするキャラクターを作り出す仕組みがあるそうです。本来は練習用に導入されたものだといいます。ところが、ある夜のオンライン対戦で、ひとりのプレイヤーがそのAIとしか思...
【ウラシリ】怪談

見えなくなる怪談

8月の終わり頃、いくつかのSNS投稿が、理由もなく削除されていたそうです。投稿者自身に削除の記憶はなく、通知も届いていなかったとされています。確認すると、それらはすべて、自分が運営する怪談サイトに掲載した創作怪談の本文へ誘導するための、“導...
お知らせ

遺失物室奇譚のご紹介

“遺失物室奇譚”警察署の落とし物保管室にまつわる、小さな怪談の連なり……▼シリーズまとめはこちら今回は、同じ記事をきっかけに三つの怪談が立ち上がりました。意図したわけではなく、偶然“三部作”のようなかたちになったのだとか……。 そして、この...
【ウラシリ】怪談

視線の設計者

あるeスポーツ団体が、最新大会のプロモーションとして投入したのは、「人間の動きを学習するAI選手」でした。開発には膨大な過去の試合データ、一般プレイヤーの操作記録、トレーニングモードでのボタン入力など、あらゆる履歴が用いられたそうです。そし...
写真怪談

棚に並ぶ記憶

都内のビルの一角、北海道のアンテナショップに入ったときのことだった。ふと目に留まったのは、棚一面に並ぶ袋麺やレトルト食品。そのどれもが、遠い昔を呼び覚ます匂いを放っていた。学生時代、ひとり暮らしを始めてすぐの頃。金もなく、よく食べていたのは...